2020.04.21 08:40

液体ミルクの備蓄進む 災害時に有用 高知県内10市町村採用

哺乳瓶に注がれる液体ミルク。備蓄品の活用には母乳育児の支援も鍵になるという
哺乳瓶に注がれる液体ミルク。備蓄品の活用には母乳育児の支援も鍵になるという
母乳育児の母親支援が鍵
 国内では昨年3月に販売が始まった乳児用液体ミルクを、災害用に備蓄する高知県内の市町村が増えている。粉ミルクと違ってお湯で溶かす必要がないため断水時などに有用で、2019年度は10市町村が採用。2020年度も2市が備蓄を予定する。賞味期限の短さや価格の高さなども指摘されるが、流通1年で非常時の新たな選択肢として定着し始めた。

 液体ミルクは、粉ミルクと同等の栄養素があり、滅菌処理済み。常温保存したものを哺乳瓶に移し替えるだけで利用できる。欧米では1970年代から普及。日本では被災した母親らの呼び掛けで製造販売の法令整備が進み、2019年3月以降、2社が紙パックと缶での販売を始めた。

 高知新聞のアンケートによると、県内でいち早く液体ミルクを備蓄したのは6市2町2村(高知市、安芸市、南国市、須崎市、四万十市、土佐清水市、仁淀川町、梼原町、馬路村、日高村)。比較的人口や出生数の多い市を中心に、役所や防災倉庫、福祉避難所などへの備えが進んでいる。2020年度は土佐市と香美市が備蓄品に加える予定。ほかにも8町村が「検討中」としている。

 備蓄した市町村の多くは、「授乳のための清潔な容器や、粉ミルクに必要な70度以上のお湯を確保できない状況を想定した」(安芸市)といった理由を挙げた。

 一方で備蓄の有無にかかわらず、「自治体の備蓄品としては賞味期限が短い」との指摘も多かった。粉ミルクの保管期限が1年半なのに対し、液体ミルクの賞味期限は缶が1年、紙パックが6カ月。入れ替えのサイクルが早いため、期限が近づくミルクの活用法も検討事項となっている。また、コストが粉で作ったミルクとの同量比較で2~4倍になるとして、慎重な自治体もあった。

 とはいえ、外出時に持ち歩ける利便性などから、液体ミルクを使う母親らは増えている。助産師ら専門家も備蓄は評価しているが、限りある量を災害時に最大限生かすには、母乳を与えやすい環境づくりなど授乳支援全般の在り方が重要と訴えている。

 ◆ズーム◆乳児用液体ミルク
 乳児に必要な栄養分を得られるよう製造された「調製液状乳」。日本では2018年に厚生労働省が規格基準を定めるまで製造・販売ができなかった。2019年3月に江崎グリコ、4月に明治が販売を開始。清潔な哺乳瓶があれば常温のまま注いで授乳できる。16年の熊本地震で支援物資として海外から提供され注目を集めた。

土佐清水市が指定避難所のきらら清水保育園に備蓄している液体ミルク (土佐清水市清水ケ丘)
土佐清水市が指定避難所のきらら清水保育園に備蓄している液体ミルク (土佐清水市清水ケ丘)
備蓄ミルク必要な乳児に
 粉ミルクと比べ持ち運びしやすく、調乳の手間もない液体ミルク。利用する母親とともに、災害用に備蓄する自治体も増えているが、避難所での活用には粉や母乳も含めた配慮が必要だ。専門家は限られた備蓄ミルクを一律配布するのではなく、「母乳で育てている母親がいつも通り授乳できるよう支援することで、液体ミルクが本当に必要な母子に行き渡る」と強調する。

■安心感
 土佐清水市の入野沙代子さん(33)は、昨春出産した長女を母乳で育てていたが、列車などで8時間かけて山口県に帰省する際は紙パックの液体ミルクを携帯。「すぐに飲ますことができ、持っていて良かった」と便利さを実感した。

 6カ月の男の子を持つ高知市の主婦(32)は母乳が少なく、普段は価格の安い粉ミルクを併用。外出時は紙パックの液体ミルクを持ち歩く。災害バッグにも常備しているが、持てる量には限りがあるため、市町村の備蓄を「安心感がある」と歓迎する。

 高知県内で2019年度に液体ミルクを備蓄した10市町村のほとんどは、粉ミルクに加えて選択肢を増やした格好。四万十市の担当者は、ミルクの温度が変わると飲まない赤ちゃんもいると想定し、液体だけでなく、「粉ミルクも確実に飲めるように、水と熱源の確保方法を考えたい」。土佐清水市の担当者は、災害時に必要な液体ミルクが行き渡るか楽観はできないとし、「個人の家でも備蓄を考えてみては」と呼び掛ける。

 便利な液体ミルクだが、賞味期限は粉に比べ短い。各自治体は備蓄したものの使わなかった液体ミルクの活用法にも気をもむ。防災訓練や保育所などでの使用を想定するが、多くはまだ需要を測りかねている段階だ。

 国内外の学会などは母乳育児を推奨しており、世界保健機関(WHO)は「母乳代用品」の宣伝やむやみな配布を戒める基準も策定している。

 東京北医療センターの小児科医、奥起久子さん(74)=安芸市出身=は「母乳は赤ちゃんを感染から守る免疫物質を含む。母乳で育てるのが最大の防災対策」と強調。WHO基準を踏まえ、期限の迫った備蓄ミルクは、保育園や病院の給食の材料にするなどの方法を提案する。

■いつも通り
 「高知母乳育児支援を学ぶ会」代表で土佐市の助産師、森木由美子さん(39)も、自治体の液体ミルク備蓄を評価した上で、母子への短絡的な配布には警鐘を鳴らす。

 「災害時はストレスで母乳が止まる」と心配する声もあるが、森木さんは「授乳をやめなければ母乳は止まらない」と説明。本当に液体ミルクが必要な母子に届けるためにはまず、「母乳育児の母親がいつも通り授乳できることが大事」と力を込める。

 そのためには、妊産婦や新生児が避難生活を送る福祉避難所や、授乳専用スペースなどの環境整備が必要。母子の健康状態や平時の授乳方法について聞き取りながら、適切な助言や物資提供を行う運営体制も問われる。

 森木さんは、行政職員や地域住民、保健・医療従事者ら他職種で勉強会を開くなどし、災害時の役割分担を含めた体制づくりに取り組むよう訴えている。(清水支局・山崎彩加)

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カテゴリー: 社会子育て社会

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