2020.04.07 08:00

【70歳就業法】安心して働ける制度を

 高齢者が使い勝手の良い労働力として利用されないよう、安心して働ける制度を確立すべきである。
 希望する人が70歳まで働けるよう企業に就業機会確保の努力義務を課す関連法が国会で成立した。2021年4月から実施される。
 少子高齢化が進み、このままでは社会保障制度が先細りしていく。現役世代が急速に減り、多くの職場は人手不足に窮している。
 全世代型社会保障改革を掲げる安倍政権が、人手不足を解消し、社会保障制度の担い手を増やすという「一挙両得」を狙った目玉政策といえる。
 むろん働く意欲と経験、知識が豊富な高齢者が能力を十分に発揮できる社会を目指すことは大切だ。
 ただ、成立した関連法には課題が少なくない。
 65歳までを対象にした現行制度は定年の延長や廃止、継続雇用制度の導入で、希望者全員を雇用するよう企業に義務付けている。
 70歳までの新制度は、これに起業やフリーランスを希望する人への業務委託や、自社が関わる社会貢献事業への従事も加えた。継続雇用制度では他社に転職させることも認める。多様な働き方を選択肢として加えた形に映る。
 しかし、問題は業務委託や社会貢献事業への従事は企業との雇用関係がなくなり、労働者保護の関係法が適用されないことだ。
 つまり、現状では企業の都合で仕事がなくなっても賃金や報酬の保障はなく、特定の場合を除いて労災保険にも入れない。
 フリーランスの不安定さを巡っては、新型コロナウイルス感染症の影響でも収入が減った人の救済が問題になっている。
 また、働く高齢者が増える中、その労災発生率が高くなっている。厚生労働省によると、18年は休業4日以上の労災に遭った働き手の4分の1を60歳以上が占める。身体機能の低下も背景にあるとみられる。
 厚労省は今後、前提となる労使合意に際して同意すべき中身を省令で定め、指針をまとめる。不安定な環境で働く労働者を増やすことがあってはならない。
 企業側も現時点では慎重な姿勢のようだ。共同通信が主要100社に聞いた調査では、70歳まで働く環境が既にあるのは10社にすぎず、半数が検討にも着手していなかった。
 とりわけ中小企業では、若年層を含めた人事戦略や処遇体系に影響が出かねない。高齢期は健康面や仕事への意欲も個人差が大きくなる。これに対して、企業が十分な仕事を用意できない可能性もある。
 政府は企業と高齢者に対応のあり方やリスクを丸投げするような制度にはせず、十分な指針を示し、財政支援なども強化すべきである。
 政府は将来的に70歳までの就業機会確保も義務化する方針だという。ならばなお、高齢者が置かれた労働環境の実態把握と、今後進めていく制度の検証が欠かせない。

カテゴリー: 社説

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