2020.03.24 08:00

【原発の特重施設】テロ対策の本気度を疑う

 テロ対策で原発に設置が義務付けられた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の完成が期限に間に合わないとして、九州電力は川内原発(鹿児島県薩摩川内市)1号機の運転を停止した。
 この施設の完成遅れによる原発停止は全国で初めてだ。他の原発でも工事が遅れており、川内2号機が5月下旬、関西電力高浜原発(福井県高浜町)の3、4号機の運転も年内に止まる予定だ。また、四国電力の伊方原発(愛媛県伊方町)3号機の施設も遅れているという。
 特重施設は、意図的に航空機を衝突させるようなテロ攻撃を受けた場合を想定している。そうした攻撃で原発が破壊された時の被害は想像を絶する。施設が完成していない原発の運転を止めるのは当然だ。
 特重施設は、原子炉の核燃料が損傷する恐れがある場合に遠隔操作で燃料を冷却し続け、放射性物質の放出を抑える機能を持つ。
 原子炉建屋との同時被災を防ぐため、原発本体から100メートル程度離れた場所などに建設される。それだけ重要な意味と役割がある。
 東京電力福島第1原発事故の前から航空機によるテロ攻撃は重大なリスクだと国際的に認識されていた。
 だが、日本の対応は遅れ、原発事故後に作られた原子力規制委員会の新規制基準で初めて施設整備が義務化された。
 原発の再稼働審査の合格後、5年以内に設置することとされ、期限が守れなければ原子炉の停止命令が規制委から出される。
 川内1号機をはじめ、運転停止を予定している電力各社は「停止命令」を受けることで一般のイメージが悪くなる前に「先手」を打とうとしているとの見方がある。
 各社は大規模な土木工事の必要性などを施設完成が遅れている理由に挙げる。たしかに敷地内の山を切り開いたり、トンネルを掘ったりと工事は大規模になるようだ。
 しかし、工事の規模や工期はあらかじめ予測して取りかかるのが常識だ。見通しが甘く、テロ対策の本気度やその認識を疑う。
 原発再稼働で収益の改善を図りたい電力会社にとって運転停止は業績に直結する。九電や関電は特重施設の工期を短縮し、停止期間を短くする計画だという。
 施設の早期完成は安全面では歓迎するが、急ぐあまり機能に不備が出たり、労災事故が増えたりするのを心配する。
 全国の原発で再稼働のための安全対策費と施設の維持費、廃炉費用は総額13兆円を超えるとの試算がある。特重施設も一部含まれ、設置費用は1基500億円以上で1千億円を超す原発もあるという。
 全体の費用はさらに膨らむ見通しで、最終的に電気料金に上乗せされるため長期にわたって国民の負担となる。テロ攻撃に備えるための多額の安全対策費をみても、安く安定した電源という「神話」はとうに崩れている。

カテゴリー: 社説

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