2020.03.23 08:00

【春闘の回答】負の連鎖を危惧する

 主要企業で回答が示された2020年春闘は、賃上げの鈍化が鮮明になり、労働組合側に厳しい交渉結果となった。
 集中回答日だった11日には、長年、相場をリードしてきたトヨタ自動車や鉄鋼各社が基本給を底上げするベースアップ(ベア)を7年ぶりに見送ると回答した。昨年と比べ、総じて賃上げを抑制する大手企業が相次いでいる。
 今春闘は、新型コロナウイルスの感染拡大で、企業業績の先行きに不透明感が急速に高まるという激しい逆風下での交渉になった。
 経営側が慎重になるのは分からないではない。しかし、労働者の所得環境の悪化は個人消費の失速につながりかねず、結局は企業にとってもマイナスになろう。負の連鎖に陥らないかを危惧する。
 もとより日本経済は減速感を漂わせている。
 製造業の設備投資の鈍化を招いた米中貿易摩擦の影響に加え、昨年10月の消費税増税では個人消費が冷え込んだ。
 10~12月期の国内総生産(GDP)は年率換算7・1%のマイナス成長。今年1~3月期もマイナス成長になるという見方が支配的で、長期停滞入りの瀬戸際に立っているといわれる。
 ただ、春闘が事実上スタートした1月下旬は、連合はベアの要求水準を「2%程度」とし、定期昇給分を加えた4%の賃上げを要求。経団連も「人への投資」の一環として賃上げの重要性では一致していた。
 だがその後、ウイルス感染が広がるにつれてサプライチェーン(部品の調達・供給網)が混乱。株安や円高など金融市場の動揺も加わり、経営側は態度を硬化させた。
 リスクが重なる現状に主要企業が警戒感を高めた結果とはいえ、長期的にみれば、今回の賃上げ水準には疑問もある。
 14年以降、安倍晋三首相が経済界に賃上げを要請する「官製春闘」で、大手企業の賃上げ率は昨年まで6年連続で2%を超えた。一方で、物価の影響を考慮した19年の実質賃金はマイナスとなっている。
 景気拡大期とされる期間、大企業を中心に蓄えた内部留保は過去最高を更新し、18年度で463兆円に積み上がっている。にもかかわらず、稼ぎを人件費に充てた割合を指す「労働分配率」は、12年度の約72%から18年度は約66%へと低下した。
 企業が能力に見合う賃上げをしてきたとは言いがたく、業績改善から賃上げ、消費拡大につなげる「経済の好循環」は実現していない。
 ウイルス感染が終息すれば消費の盛り返しも期待されるが、今春闘の結果は消費回復の勢いに悪影響を与えるとの懸念も出ている。
 リスク要因が多い時期ではあるだろう。だが、先進国と比べて見劣りする労働者の給与や待遇は、回り回って日本経済を縮ませてゆく。経営側には「人への投資」と社会への責務を再認識する姿勢を求めたい。

カテゴリー: 社説

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