2020.03.21 08:00

【千葉虐待死判決】無念さを無駄にしない

 「尋常では考えられないほど陰湿で凄惨(せいさん)」という判決からもこの虐待事件の異常さがわかる。
 2019年1月、千葉県野田市の小学4年生、栗原心愛(みあ)さん=当時10歳=が自宅で死亡した虐待事件の裁判員裁判で、傷害致死などの罪に問われた父、勇一郎被告に千葉地裁は懲役16年の判決を言い渡した。
 被告は傷害致死罪を認める一方で、亡くなるまでの暴行の多くを否定した。しかし、食事を与えず冷水シャワーを掛けたとする母親=傷害ほう助罪で執行猶予付き有罪判決確定=の証言が採用された。
 判決理由は動機を「理不尽な不満のはけ口とした」と指摘し、児童相談所の介入を困難にした点なども厳しく指弾した。これまでの虐待事件と比べても重い量刑となった。
 事件からくみ取ることは多い。
 心愛さんは母親や学校、児相などに助けを求めた。だが、その声は届かなかった。今回に限らず、虐待死事件が起こるたびに周囲の大人や関係機関からは「もっと早く気づくべきだった」「連携が足らなかった」といった言葉が出る。
 事件ごとに状況は異なるが、もう一歩踏み込んで子どもを守るという姿勢が大人側や関係機関に欠けているのではないか。
 どうして命を守れなかったのか。心愛さんの事件を反省し、彼女の無念さを無駄にしてはならない。
 虐待は17年夏、沖縄から千葉に引っ越した頃に始まったとされる。心愛さんは母親に虐待を訴えたが、止めることができなかった。
 同年11月には、学校アンケートで父親からの暴力を訴えて助けを求めている。児相に一時保護され、保護解除後は被告の実家で生活したものの、児相は被告の要求を受けて心愛さんの帰宅を認めた。
 市教育委員会が被告にアンケート回答のコピーを渡したり、虐待がエスカレートした時期に児相も学校も家庭訪問をしていなかったりと多くの問題が分かっている。
 事件では、母親が被告からドメスティックバイオレンス(DV)被害を受けていた。虐待が深刻化していく背景に、配偶者間のDVが潜んでいるケースがある。各地の配偶者暴力相談支援センターと児相、警察などがさらに連携して虐待の早期対応につなげてほしい。
 全国の警察が昨年摘発した児童虐待事件で、被害に遭った18歳未満は1991人。前年より4割以上増えた。虐待の疑いがあるとして児相に通告したのは10万人近くに上り、5千人以上の子どもが保護された。
 増加する通告や相談に児相は対応できているだろうか。専門職の児童福祉司を国は増やす計画だが、さまざまな事例に対応できるようになるには経験が必要だ。そうした時間を考慮して職員増を図る必要がある。
 夢はパティシエだったという心愛さん。亡くなる前は「未来のあなたが見たい」と自分宛ての手紙に書いていた。次の心愛さんを出してはならない。

カテゴリー: 社説

ページトップへ