2020.03.20 08:00

【「森友」の手記】貴重な証言で再検証を

 これは財務省の一人の職員が、一命を賭して、安倍政権下で組織的な不正が形成される過程を、具体的かつ詳細に告発した手記である。
 手記を残していたのは3年前に発覚した学校法人「森友学園」の国有地売却問題を担当し、1年後に自殺した財務省近畿財務局の当時54歳の男性職員だ。
 森友学園が取得した国有地が評価額から8億円余り値引きされた問題は、当時の財務省理財局長の佐川宣寿(のぶひさ)氏の指示で、決裁文書の改ざんを強制され、自殺に追い込まれた―。職員の手記や遺書を基に、妻が国と佐川氏に計約1億1千万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。
 手記や訴状などによると、男性職員は公文書の改ざんに対し、「うそにうそを塗り重ねるという、通常ではあり得ない対応」などと、財務省に強い不満を表明している。
 この問題で財務省は、2年前の6月、調査報告書を公表した。
 その内容は、文書改ざんは佐川氏が方向性を決めた▽佐川氏は政治関係者の記載は外に出すべきではないと発言▽森友学園が建設を計画していた小学校の名誉校長に一時就任していた安倍昭恵首相夫人や、政治家らの関与を示す部分が削除された―などと佐川氏主導を認めている。
 これを根拠に財務省は、佐川氏を停職3カ月相当とするなど関係者20人を処分した。だが、弁護士など第三者の目が入っていない、あくまで身内の調査結果だ。
 男性職員の手記は、その弱点を現場の立場から具体的に肉付けし、不正の根底を明らかにする。安倍晋三首相の「私や妻が関係していたなら首相も議員も辞める」との国会答弁の直後から、男性職員は上司から指示を受け、改ざんに携わった。相当な抵抗をしたが財務省からの締め付けに覆すことはできなかった。
 長時間労働や連続勤務で心身を病み、うつ病を発症して休職した。良心の呵責(かしゃく)もあったろう。公務員として当然の抵抗を、安倍政権中枢の官僚や財務省幹部の忖度(そんたく)と保身が押しつぶしたのではないか。
 貴重な男性職員の証言を生かすには、決裁文書の改ざんに至る経過を再検証し、真相を改めて究明することが必要だ。手記の中には、財務省の調査報告書に記載がない内容も含まれている。
 2年前の国会の証人喚問で「刑事訴追の恐れがある」として証言拒否に終始した佐川氏を、再び喚問することも可能ではないか。しかし自民党は、財務省の調査と処分で既に区切りはついているとして、逃げ切りを図る構えだ。
 公務に誠実に向き合おうとした人一人の命が失われたのである。問題発覚から3年を経て提訴に踏み切った遺族の思いを、もっと真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
 首相が多数の支援者らを招いた「桜を見る会」では、内閣府が疑惑解明の鍵となる招待者名簿を処分していた。役所の論理ではなく、人としての倫理が必要ではないか。

カテゴリー: 社説

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