2020.03.14 08:00

【緊急事態宣言】私権制限に懸念拭えず

 新型コロナウイルスのさらなる感染拡大に備え、「緊急事態宣言」を可能にする改正新型インフルエンザ等対策特別措置法が成立した。
 感染が急速にまん延する最悪の事態を想定した備えは必要だろう。しかし、政府の裁量による私権制限にどう歯止めをかけるのかは依然、懸念が拭えない。
 特措法が定める私権制限は幅広い。首相が緊急事態を宣言した場合、対象地域の都道府県知事は住民に対し、仕事や食料品の買い出しなど必要な場合を除く不要不急の外出自粛を要請できる。学校休校のほか映画館などの興行施設の使用制限、医薬品や食品といった必要物資の売り渡しも要請可能だ。
 正当な理由なく要請に応じなければ、興行施設の使用制限を「指示」。必要物資は「収用」の強制措置を取ることもできる。臨時医療施設を開設するため、所有者の同意を得ずに土地・建物を使用することも可能になる。
 これまでの休校要請などよりも拘束力は格段に強くなる。運用次第では企業活動や、市民の権利が過剰に制限される恐れがある。
 懸念されるのは宣言の要件が曖昧で、法改正でも国会承認などの厳格化がされなかったことだ。
 特措法には「全国的かつ急速なまん延」で「国民生活や経済に甚大な影響を及ぼす」場合としか示されていない。首相は、専門家で構成する諮問委員会の判断を前提に宣言を出すことになる。
 野党は国会の事前承認を要件とするよう求めたが、自民党は拒否。最終的に、国会への事前報告を盛り込んだ付帯決議で折り合った。
 立憲民主党など野党3党は「国会の関与が強まる」としている。しかし、「報告」にとどまった付帯決議が私権制限の歯止めになるのかは不透明だ。
 安倍晋三首相による唐突な一斉休校要請は、学童保育に子どもが集中して感染リスクが高まったり、子を持つ看護師が病院を欠勤して診療体制が維持できなくなったりするなど社会に混乱をもたらした。
 参院予算委員会の公聴会でも、社会や経済への影響を抑え、科学的根拠を政治判断に生かすよう求められている。付帯決議には「政府対応の客観的、科学的検証」も盛り込まれた。国会による十分なチェック機能の発揮が重要になろう。
 全国知事会からは、「知事に重い責任がのしかかる」として発動要件の説明を求める意見が出ている。当事者になる国民や知事に対する説明と理解も当然欠かせない。
 確かに世界保健機関(WHO)は「パンデミック(世界的大流行)」の表現を使った。しかし国民の権利は憲法が保障している。国内がそれを制限する状態なのかは慎重かつ科学的に判断されなければならない。
 当面の政府の責務は、特措法を適用しなくても済むよう感染の終息に向けてあらゆる手だてを尽くすことである。

カテゴリー: 社説

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