2020.02.27 08:35

ただ今修業中 ケーキ職人 浜口茉亜子さん(30)土佐市

人気のロールケーキには春限定の桜味も。味のアクセントとして、クリームに塩エンドウ豆を加える(高知市駅前町の「亜俚亜」)
人気のロールケーキには春限定の桜味も。味のアクセントとして、クリームに塩エンドウ豆を加える(高知市駅前町の「亜俚亜」)
店の味を守り、進化
 ふわーっと、甘い香りが広がる厨房(ちゅうぼう)。薄く焼き上げた生地の全面にクリームをささっと塗り、手前から奥へ、くるり。あっという間にロールケーキが出来上がる。ここから一晩冷やし、生地とクリームをなじませる。

 「昔は全然うまく巻けませんでしたよ」と話すのは、高知市のケーキ店「亜俚亜(ありあ)」で生菓子を担当する浜口茉亜子さん(30)。入社10年目の手つきには、さすがに無駄がない。

 それでも「味がぶれないように緊張するし、不安にもなる」。同じレシピでも、季節などによって素材の扱い方や作業のタイミングを調整する。

 ケーキの種類によっては、ムースの仕込みやフルーツの下ごしらえなどの工程を2、3日重ねる。店頭の売れ行きを見ながら段取りを考え、忙しい日は昼食を取る時間もないという。
 
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 室戸市出身。母手作りのおやつを食べて育った。中学生になると自分でも菓子を作り、友達に配ったりしていた。

 ケーキを作る仕事がしたいけど、高知県内には専門的に勉強できる学校がない―。高校3年になって進路を悩んでいたところ、翌春に高知市の高知情報ビジネス専門学校に「製菓製パン科」ができると知った。「運命的なタイミング」と、迷わず入学した。

 製菓の技術を2年間学び、講師の紹介で亜俚亜に就職。当初はオーナーパティシエ(社長)の酒匂(さかわ)佐太郎さんや先輩のサポート役で、道具の用意や材料の計量など下準備を担当した。

 年月を重ね、少しずつケーキ作りを任せてもらえるように。レシピを書き写し、味や飾り付けを確認してもらいながら「失敗しても優しく育ててもらいました」と振り返る。約5年前から生菓子担当の中心を担い、結婚も経て、公私ともに順調な日々を送っていた。

 ただ、産休に入った2016年、転機を迎える。病気を患いながらも店に立っていた社長の体調が急に悪化。12月に他界した。クリスマス前の繁忙期。浜口さんは助っ人として店に戻り、生後4カ月の長男を「抱っこひも」で抱えたままケーキ作りを手伝った。

 産休明けの2017年春に本格復帰。仕事への責任感はより大きくなり、「社長が築き上げた店の味を守る」と誓う。

 一方で、ケーキを作る素材や技法はどんどん進化する。近年は甘さ控えめが好まれるなど、客の嗜好(しこう)も変化する。

 「オリジナル商品を考え、進化させることも必要」だと、他の洋菓子店や飲食店からもトレンドを吸収し、商品開発に励む。「社長という相談相手がいなくなった。日々、勉強です」
 
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好きな言葉
好きな言葉
 「ママ、散歩してくるね」。長男の暖太(ひなた)ちゃん(3)が、手の空いた亜俚亜のスタッフと一緒に遊びに出掛けた。保育園が休みの日は、浜口さんと“出勤”。わが家のように店になじんでいる。家では料理に興味を持ち、卵も割れるという。

 浜口さんに夢を尋ねた。「小さな自分のお店でも持てたら、なんてぼんやり考えますけど」としつつ、「お母さんがケーキを作っていることを、この子がしっかり覚えてくれるように、まずは亜俚亜で頑張りたい」。

 目をぱちっと開き、りりしく話す姿が印象的だが、このときは母親の優しい笑顔を見せた。

  写真・島本正人
   文・井上智仁

カテゴリー: 社会高知中央

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