2020.02.27 08:36

悩めるスーパー地鶏「土佐ジロー」34歳(9)明神丸が救いの手

カツオのたたきの店「明神丸」は土佐ジロー肉も出していた。料理を持っているのは森下幸次社長 (高知市本町2丁目の明神丸・梅野)
カツオのたたきの店「明神丸」は土佐ジロー肉も出していた。料理を持っているのは森下幸次社長 (高知市本町2丁目の明神丸・梅野)
「熟鶏の壁」に風穴
 余剰卵とともに土佐ジロー生産者の悩みは、「熟鶏(じゅくけい)」と呼ばれる産卵期を終えた母鶏の処分である。飼育者にとってはこれもかなり切実、と思っていたら、思いがけない救世主が現れていた。

 32年前、土佐ジロー飼育が始まった時、熟鶏は食鳥処理業者に1羽500円で買い取ってもらい、精肉で販売。その500円は次のひなの購入費に充てる構想だった。だが、思惑通りにいかないのが土佐ジロー。体が小さいので解体は手作業となり、処理費が600~700円に。諸経費、利益を乗せると出荷は1羽千円台半ば。片や採れる肉はわずか400~450グラム。つまり、硬いのに100グラム約400円。簡単には売れるものではない。ちなみに、この熟鶏肉は安芸市・はたやま夢楽(むら)が作る雄の若鶏肉とは質が違う。

 熟鶏肉は他にウインナーや冬場の鍋物にも使われるが需要は限られる。そんなわけで農家は1羽、100~300円の収入になれば良い方。あきらめて自分でさばき、近所に配る人もいるという。

 その悩みが解決され始めていると知ったのは2019年末。四万十市の「いちえん農場」を訪ねた時だった。経営者の一円信明さん(44)は27歳で父の後を継いだ。果樹園の中で1200羽ほどを完全放し飼い。さらに、ひなの育すう・販売から、食鳥処理(有資格者)まで全般を手掛け、卵も熟鶏肉も売り、多忙を極めている。

 彼も当初、熟鶏処理には困っていた。自分の土佐ジローは、自分でさばいて自家消費や個人ルートで売っていたが、他の農家では無理。11年前、高知県土佐ジロー協会の西部支部長になって、皆が困っていることを知り「せめて餌代だけでも出るように、お金に換えちゃらないかん」と一念発起。真空パック機や冷凍機を買い、肉を作り始めたが、5年間、全く売れなかった。

 そして5年前に出会ったのが、カツオのたたきに特化した業態で展開する飲食店「明神丸」。2000年、高知市のひろめ市場内に出店して大当たり。多店舗展開を始めていた。

 本社は隣の黒潮町。卵の商談で来た森下幸次専務(現社長)に一円さんはぼやいた。「肉で困っちょうがです。何とかならんですかねえ」。すると、「ちょっと売ってみましょうか」となったのだ。

 森下社長は振り返る。「ちょうど岡山に店を出す前で、高知の食材で特色を出したかったんです。肉はその時初めて知って、面白いなと。親鶏は味があるんで僕は好きなんですよ」。硬さについては、「歯応えあり」で提案すれば、納得してもらえると思ったという。

 元は漁師だったので、生産者の気持ちも分かる。もうけ度外視価格でメニューに入れたら意外と売れて、岡山店以外にも拡大。一時は月間240羽分も出荷するほどに。現在は半分に落ち着いたが、この3月から13店中、11店で熟鶏を春のコース料理に入れることが決まった。

 一円さんは言う。「ひょっとしたら足らんなるかも、みたいな話で、本当に感謝です。問題が一つずつ解決すれば、新規参入も呼び掛けやすくなる。飼育者が増えれば、ひな注文にもつながるし」

 思わぬ形で高知の漁業が農業を救い始めていた。しかも3次産業で、というのが面白かった。 (編集委員・掛水雅彦)

カテゴリー: 政治・経済土佐ジロー34歳経済

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