2020.02.26 08:33

悩めるスーパー地鶏「土佐ジロー」34歳(8)黒潮町で液卵に活路

金子淳さんが余剰卵対策で作った液卵はサーモンピンクの鮮やかさ。1パック2キロで卵60~70個分を使用(黒潮町蜷川)
金子淳さんが余剰卵対策で作った液卵はサーモンピンクの鮮やかさ。1パック2キロで卵60~70個分を使用(黒潮町蜷川)
ジローの壁「余剰卵」
 土佐ジローは甘くない―と前回書いた。規模を拡大すると壁が立ちはだかるのだ。それで今、苦労しているのが黒潮町「みながわ農場」の金子淳(じゅん)さん(51)だった。

 車の部品製造から土佐ジローに乗り換えたのは2011年。家の周囲に耕作放棄地が増え、「もったいない」と思ったのが始まり。試しに土佐ジローを飼うと産卵率7割のはずが10割近い。「面白い!」と鶏舎を建て、ひな300羽を購入。産卵率は6~7割に落ちたが、2年目には900羽、3年目は1300羽に。売り先は地元飲食店や直販所から始まり、冷菓メーカーや県外の居酒屋チェーンにも広がった。

 「頑張っているらしい」と聞いて昨年暮れに訪ねると、金子さんは浮かぬ顔だった。その1年前、居酒屋チェーンが別のブランド卵に乗り換え、そこから悪循環が始まっていたのだ。

 1日200個、1カ月で6千個の売り先が消えたのだ。だが、卵は毎日産まれてくる。腐らせたくないので無料で配る→収入が減る→餌が買えなくなる→産卵数が落ちる→収入減で次のひな購入に支障が出る--。

 「目標の2千羽までもう少し、というところだったんでショックでした」

 土佐ジローが産卵するのは生後150~450日。その後は産卵率が落ち、卵も大きくなり、卵質も落ちるので「ジロー卵」として売ることはできない。親鶏も処分となる。このため、訪ねた時に「土佐ジロー卵」を産める母鶏は1300羽ほどになっていた。

 そのしわ寄せが昨年暮れに現れた。宴会需要で注文がどんどん来るものの、土佐ジローは減り、しかも冬場は産卵率が落ちる。金子さんは早い段階で、黒潮町のふるさと納税返礼品の注文を断って迷惑を掛けなかったが、最大の稼ぎ時にフル稼働できなかったのは痛かった。

 土佐ジロー飼育の怖さ。それは不安定な産卵率だ。卵の需要期は盆暮れと5月の大型連休。一方、自然飼いのジローは夏は夏バテ、冬は日照時間の短さで、通常7割の産卵率が5割にダウン。飼育が千羽だと、1日で200個近くも差が出る。需要のピークに合わせてひなを入れると、産卵率が上がる春先に卵が余り苦労する。販路開拓にも無理が行き、痛い目に遭いやすいのだ。

 余剰卵対策として高知県土佐ジロー協会は20年ほど前、液卵にして冷凍保存し、加工用で売る事業に挑戦したが挫折した。なぜか。液卵生産を専門の業者に頼むと、新鮮な卵が数千~1万個規模で要る。小農家ばかりだったので、高知県土佐ジロー協会は広く呼び掛けたのだが、その中に腐敗卵が交じり全廃するはめに。それが3度も続き事業は終わった。

 実はその液卵事業を、金子さんは個人で始めていた。自分で割卵して零下20度で保存。賞味期限1年間のうちに出荷するのだ。大口農家で全部、自分の手掛けた信頼の卵だからできる。大口キャンセルの余波にあえぎながらも2019年秋、2台目の冷凍庫を購入。間もなく来る余剰卵期に備えていた。

 本当は生産者が結束して取り組めれば産業化への道が開けるし、羽数増にもつながるのだが、できそうでできないのがジローだった。(編集委員・掛水雅彦)

カテゴリー: 政治・経済土佐ジロー34歳幡多経済

ページトップへ