2020.02.18 08:20
悩めるスーパー地鶏「土佐ジロー」34歳(7)ジローで高知を変えたい
もう1人、土佐ジロー飼育の新規参入者を見つけた。高知市土佐山地区のジロー農家を継承した尾崎彰則さん(35)=日高村在住。飼育歴はこの3月で丸1年と浅いが、意気込みはすごかった。
まだ駆け出しなのに、と驚いてしまうのだが、前職は全国展開の地鶏居酒屋チェーン。そこで店舗開拓を手掛け、流通の仕組みも勉強したし、ネットワークもあるという。
「初めて、人生を懸ける価値のあるものに出会った気分です。夢を語りすぎやぞって言われるのは自分でも分かってます。けど、口に出さんと始まらんやろと」
聞けば、土佐ジロー飼育の始まりは幸運だった。「飲食店をやりたい」と2018年2月に帰郷。模索の末、2018年12月、高知県畜産振興課を訪ね「土佐ジローを飼いたいんです。もし、やめる人がいたら継がせてほしい」と頼んだら1週間後、「やめたい人がいました」の連絡。年明けに面談して即合意。車の免許を取り、2019年3月4日に弟子入りした。
師匠は「夢産地とさやま開発公社」の大崎裕一執行理事(70)。高校の先輩だった。飼育歴11年。「BMW技術」という自然界の浄化システムを応用した良質の堆肥作りを実践。土佐ジローもその実証で飼っていたが、鶏舎の借地期限が来て撤収が迫っていたのだ。550羽。卵は1個100円。ザ・リッツ・カールトン大阪の料理店が使っているのはここの卵だ。飼育を徐々に引き継ぎ、現在は8割が尾崎さんの鶏。近々、新鶏舎を別の場所に建てる。
日高村の実家に住む尾崎さんは今、午前6時起床。前日、パック詰めしておいた卵を店へ配達。昼間は土佐ジローの世話をし、夕方からは高知市内の居酒屋でアルバイトの日々。その合間を縫って高知大学の「土佐フードビジネスクリエーター人材創出事業」(160時間)も受講した。「資金も要るし、営業の勉強もしておきたいんで」とエネルギッシュだ。
目指すは土佐ジローの6次産業化だという。「やってみて分かったんですが、土佐ジローは卵販売だけでやるとなると千羽以上でないと難しい。そうなると鶏舎の建設費用も大変。現状で最大限の効果を生み出すには、卵に付加価値を出すこと。そう考えた時、加工品作りとサービス提供も一体でやるしかないと。いろいろアイデアを温めているんです」
土佐ジローの6次産業化は、安芸市・はたやま夢楽(むら)が先駆者だ。土佐ジロー歴32年。だが、いまだに紆余(うよ)曲折の中。土佐ジローは甘くない。ただし、ちょっとしたきっかけが急成長を可能にする現代。尾崎さんの秘める力にかけてみたい気もした。(編集委員・掛水雅彦)