2020.02.03 08:00

【米の中東和平案】自己第一主義を危惧する

 中東和平の進展は極めて難しい情勢になった。トランプ米大統領の独善的な提案は、もはや米国第一主義を通り越して自己第一主義といえるのではないか。
 トランプ氏がイスラエルとパレスチナの中東和平案を発表した。
 パレスチナ国家を樹立し、イスラエルとの共生を目指すという歴代米政権が掲げてきた「2国家共存」を踏まえてはいる。しかし、その実は国際社会が積み上げてきた合意を無視し、露骨にイスラエルに肩入れした内容である。
 和平案は、占領地ヨルダン川西岸に建設されたユダヤ人入植地のイスラエル主権を容認。帰属を争う聖地エルサレムは分断せずにイスラエルの首都とし、パレスチナ難民の帰還権も否定している。
 パレスチナは、入植地が占領された1967年の第3次中東戦争前の境界線に基づいて国家を樹立し、首都を東エルサレムとした上での2国家共存を大原則としてきた。自治政府は到底、受け入れることのできない提案だろう。
 イスラエルによる入植活動は、占領地の地位変更を禁じた国際法に違反するというのが国際社会の共通認識だ。このため、国連は総会や安全保障理事会で再三、イスラエルを非難する決議を採択してきた。
 和平案を受けて国連のグテレス事務総長は、2国家共存の理念は67年以前の境界線に基づくと強調。国連への事前通知もない和平案を認めない立場を示したのは当然だ。
 これまでにもトランプ政権は、在イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移転し、首都として認定。2017年12月の国連総会決議で撤回を求められている。
 また、占領地ゴラン高原の主権を承認。イスラエルが敵対するイランとの核合意からも離脱した。親イスラエル路線を鮮明にし、「公平な仲介役」の責任を放棄したかのような振る舞いが目に余る。
 トランプ氏は11月に大統領選を控える。一連の政策は、重要な支持基盤で、イスラエル支持を信仰上の義務と考えるキリスト教福音派への対策という色合いが濃い。
 パレスチナ問題では、4次にわたる中東戦争などで多くの血が流されてきた。超大国のリーダーが、自らの利益のために重大な国際問題まで選挙対策に利用する姿は、国際社会にとっての悲劇ではないか。
 かつてパレスチナ問題は、アラブ諸国が団結してイスラエルに立ち向かう優先課題だった。
 しかし対イランで米国を頼るサウジアラビア、経済面でも米国に依存するエジプトは「努力に感謝」と一定の配慮を示した。逆に対米関係が悪化するイランは「背信」、トルコは「破壊」と強く批判している。
 トランプ氏の「踏み絵」が中東諸国の分断を深め、地域の新たな火種になることを危惧する。情勢不安の引き金になることを避けるため、日本を含む国際社会も積極的に関与していく姿勢を求めたい。

カテゴリー: 社説

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