2020.01.04 08:30

悩めるスーパー地鶏「土佐ジロー」34歳 創業450年の京都老舗料亭が採用

名物の半熟卵で提供されている土佐ジロー(写真はいずれも京都市内)
名物の半熟卵で提供されている土佐ジロー(写真はいずれも京都市内)
名物・半熟卵で提供
 京都市内の創業450年を誇る老舗料亭。季節を織り込んだアートな料理は懐石料理の一品、「八寸(はっすん)」と呼ばれるもの。山海の幸を盛り合わせた酒の肴(さかな)だ。その中で鮮やかなコントラストを描いて存在感を出している半熟卵は、「土佐ジロー」である。

 料亭の名前は残念ながら紹介できないが、もともとは名刹(めいさつ)、南禅寺の門前の茶店。庭先で飼っていた鶏の卵をゆでて旅人に提供したのが看板卵料理の始まりという。

◎11年連続「三つ星」
 「品種とかでなく、親しみやすさ、ということで続いている卵なのでイメージの固定化を避けたいんです」と第15代当主(45)。そうは言いつつ、京都で半熟卵が名物、しかも、ミシュランの最高評価「三つ星」を11年連続で獲得している―ということは書いても構わないという。

 さて、気になるお食事代だが、やはり高級である。朝がゆのコースが約6千円、夜のコースは約3万円から。その分、店の造りもさすがだった。小さな入り口から庭に入ると、各部屋にいざなう石畳の小道は、古木の根元を分厚いコケが延々と覆い、それだけでも別世界。水路では金色のコイがくつろぎ、高知で言えば料亭「得月楼」をさらに格調高くした風情である。
庭の入り口の分厚いコケだけでも、この料亭の格調の高さが分かる
庭の入り口の分厚いコケだけでも、この料亭の格調の高さが分かる

◎当主をとりこに
 そんな超高級料亭の食材になぜ、土佐ジローの卵が仲間入りできたのか。それは10年前の5月。15代当主が食材視察で高知を訪れた。案内したのは高知県の畜産振興アドバイザー、山本謙治さん(東京)。土佐あかうしを見た後、吾川郡いの町の山腹にある池上千佳さん(43)の鶏舎に立ち寄ったのだ。

 当時、京都府内では、卵の生産業者が相次いで廃業。当主は新たな卵を探していた。そんな中で出合った土佐ジロー卵は当主をたちまちとりこにした。

 「小ぶりで食べやすいところが一番です。黄身と白身の、味と硬さのバランスもいい。どちらも主張がしっかりしていたんです」。懐石なので、卵で満腹感が出るのは避けたいだけに小ぶりは好都合でもあったのだ。ジローの卵の大きさに物足りなさを感じる声はよく聞くが、正反対の価値観である。ちなみに、池上さんは量産できないため、料亭では別の品種の卵も使っているという。

 さて、名物卵を食べてみた。硬くも軟らかすぎもせず、ツルッとした白身の歯触り、トロッとした黄身の甘さ。そして上品な調味が味を引き立てる。思わず「うまいですね」とうなると、同席したこの道40年の料理長(58)が、「つくづく良くできた卵です」とうなずいた。

◎危うい生産事情
 高知県畜産試験場が開発した「土佐ジロー」。そのユニークな名前がついたのは1985年夏のこと。小さいのに値段が高く、産卵率も7割までと低い。産業鶏としては見向きもされなかったが、味は抜群。次第に評価が高まり、こだわりの素材として加工品にも重宝。肉も一時、都会のデパ地下で100グラム903円で売られていた。そして今、日本を代表する料亭が使うまでになった。

 そんなすごい鶏なのに、調べてみると土佐ジローの足元はかなり危うかった。生産者が減り、協会の運営は深刻な状況に直面しているのだ。

 高知新聞は14年前、「土佐ジロー20歳」と題してスーパーブランドへの紆余(うよ)曲折の軌跡を連載したが、薄氷を踏む状況は相変わらずである。高知県の誇る食材となったのになぜ、上昇気流をつかめないのか。歯がゆい実情を2月に連載で紹介する。(編集委員・掛水雅彦)

カテゴリー: 政治・経済土佐ジロー34歳経済

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