2016.02.17 11:30

小社会 高知市の筆山を対岸に望む鏡川のほとりに、高さ1…

 高知市の筆山を対岸に望む鏡川のほとりに、高さ1メートル30センチほどの碑が立っている。碑文には「孤蝶藤村交歓の地」とある。孤蝶は高知市出身の英文学者馬場孤蝶。藤村は後に「夜明け前」などで知られる作家島崎藤村だ。

 1893(明治26)年2月下旬、藤村は高知市で英語教師をしていた孤蝶の家を訪ね、5日ほど滞在した。2人とも20代の文学仲間で、その年に同人雑誌「文学界」を創刊したばかり。作品は世評にも上っていない。

 藤村は当時、教え子との愛を清算するため関西を放浪していた。孤蝶の家の窓から見える、なだらかな筆山の山容と鏡川の清流。旧友との再会で、文学論や恋愛の悩みなどを大いに語り合ったのだろうか。

 一方、間もなく上京した孤蝶は、「文学界」に作品を発表していた樋口一葉と知り合った。一葉は日記に「孤蝶君は故馬場辰猪君の令弟なるよし」と記した。辰猪は米フィラデルフィアで客死した、自由民権運動の論客。一葉の日記には辛口の人物評も多いが、孤蝶は「うれしき人也(なり)」と好意的に描かれている。

 高知での孤蝶との交歓から4年後、藤村は詩集「若菜集」で一躍脚光を浴びた。一葉も「大つごもり」「たけくらべ」などの傑作を「文学界」に発表し、早世した。新しい明治文学の創造に、孤蝶が果たした役割は大きい。

 きのうの鏡川河畔にも早春の冷たい風が吹き付けていた。だが青春の交わりは、必ず花開く。
カテゴリー: 小社会コラム


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