2019.12.15 08:00

【ビキニ訴訟】被ばく者放置は許されぬ

 米国によるビキニ環礁の水爆実験で多くの日本人漁船員が被ばくしてから65年。元船員や遺族の叫びは控訴審でも届かなかった。

 被ばくを示す資料を日本政府が隠し続け、必要な治療が受けられなかったとして、元船員らが国家賠償を求めた訴訟で、高松高裁は、請求を棄却した一審高知地裁の判決を支持し、原告の控訴を退けた。

 政府の隠匿について高裁は、これまでの間に閣僚も政府関係者も、所属政党を含め多数が交代しており、「隠匿が引き継がれたというのは現実的でない」と否定した。

 ただ、被ばく者がこれまで政府から放置されてきたのは紛れもない事実だ。被ばく者の救済や支援について司法の場はもちろん、政府や国会でも検討されていくべきだ。

 米国は1946~58年に太平洋のマーシャル諸島で核実験を行った。54年の水爆実験では静岡県のマグロ漁船「第五福竜丸」の船員らが被ばく。約半年後に無線長の久保山愛吉さんが死亡した。

 当時、周辺海域では第五福竜丸以外にも多くの日本の漁船が操業。帰国すると検査を受け、魚は廃棄されたと元船員は証言している。

 ところが、政府は86年、第五福竜丸以外の被ばく漁船の検査資料はないと国会で答弁する。元船員らの求めで、延べ556隻の検査結果を開示したのは2014年のことだ。隠してきたと疑われても仕方がない経緯だろう。

 高松高裁は、船員が被ばくの検査を受けたことは当時から知られ、国の職員らは被ばくを知っていた可能性は高いと指摘。一方で、当時は被ばくの健康被害の知見が不十分で、こんにちから見れば過小評価したと言わざるを得ないが、それは「結果論」だとした。かなり政府側の論理に立った判断と言えよう。

 忘れてはならないのは、この問題は当時、日米両政府で早期の政治決着が図られたことだ。被ばく翌年、米国が日本に見舞金200万ドル(当時7億2千万円)を支払うことで米国の法的責任は不問とした。

 核実験を繰り返した上に、外国人の被害を矮小(わいしょう)化しようとする米国の姿勢は許されないが、日本政府の責任も重大だ。処理を急ぐため、第五福竜丸以外の被ばく者を放置した可能性すらある。

 なぜ長らく情報を開示せず、被ばく者の健康の追跡調査をしなかったのかも政府からは納得のいく説明がない。米国への配慮は感じられても自国の被害者への対応はあまりに不誠実だ。

 原告側は上告について慎重に検討するという。いずれにしても政府には元船員らの救済や支援に当たる責任がある。それは一審、二審の判決ともに指摘している。

 元船員は事実上の「労災認定」である船員保険の適用を申請したが、健康被害と被ばくの因果関係が不明だとして退けられている。元船員や遺族の高齢化も進んでいる。これ以上の放置は許されない。

カテゴリー: 社説

ページトップへ