2019.12.14 08:38

クロマグロの人工種苗事業が継続困難 需要なく民間撤退へ

いけすを泳ぐ人工種苗のクロマグロ(2016年9月、大月町柏島)
いけすを泳ぐ人工種苗のクロマグロ(2016年9月、大月町柏島)
 高知県内の官民が共同で取り組んできたクロマグロ人工種苗の生産・育成事業が、来年度からの継続が難しくなっている。ふ化や中間育成の技術は確立できたものの、養殖業の現場では生存率などが優れる天然種苗が優先され、需要がないため。県は、水産振興策の柱となっているプロジェクトで大幅な戦略見直しを迫られる。

 クロマグロの人工種苗生産は、資源量の減少や養殖用稚魚の捕獲規制を背景に、高知県と山崎技研(香美市)が2014年度から共同研究を始めた。幡多郡大月町の養殖マグロから採卵し、須崎市にある山崎技研の陸上水槽施設でふ化させ、体長約5センチまで飼育。1、2年目の試行錯誤を経て、3年目の2016年度には約1万7千匹をいけすに戻すことに成功し、種苗の量産技術には一定のめどを付けた。

 養殖業者に種苗を提供するには体長30センチ程度まで育てる必要があり、2017年2月、山崎技研と石油ガス卸販売のヒワサキ(高知市)が新会社「高知水産」を共同で設立。高知県から委託(2017~19年度、委託費約1億7千万円)を受ける形で、大月町で中間育成に取り組み、2017年度には30センチ級に約7700匹が育った。

 しかし、このうち大月町内の養殖業者に無償配布した2100匹は、程なく全滅。県によると、原因は把握できていない。一方でマグロ養殖を手掛ける大月町の全4社は、天然種苗でいけすを充足できる状況が続いており、残る5600匹も買い取り手がつかなかった。

 2018年度は台風の影響で中間育成できた種苗はわずか約430匹、2019年度も採卵がうまくいかず約600匹にとどまり、販売先が確保できなかった。高知水産は「需要がない状況で来年度の事業継続はできない」と判断し、これに合わせて山崎技研も稚魚生産事業を見直す方針だ。

 人工種苗の供給ビジネスの創出へ、多額の開発費を投じてきた県は「方向性を見直さざるを得ない」(漁業振興課)とし、「天然稚魚が不足する事態は今後あり得るかもしれず、その備えはしていきたい」としている。

マグロ種苗を中間育成するいけす。約30センチまで育成する技術は確立できていた(11月下旬、大月町柏島)
マグロ種苗を中間育成するいけす。約30センチまで育成する技術は確立できていた(11月下旬、大月町柏島)
県内業者「天然稚魚が優位」 人工種苗は生存率低い
 養殖クロマグロの出荷が全国3位という産地の特性を生かして、高知県内の官民が共同でビジネス化を目指した人工種苗の生産・育成事業。しかし、県内の養殖業者は「天然稚魚の方が優位性がある」と慎重に判断し、事業は暗礁に乗り上げた。

 県内では幡多郡大月町沖で4社がクロマグロ養殖に取り組んでいる。計約3万匹の天然稚魚を使って、2~3年かけて50~60キロまで育成し、出荷量は合わせて約2200トン(2018年)。

 県によると、中間育成を手掛ける「高知水産」が育てたクロマグロの幼魚2100匹が全滅した理由ははっきり把握できていない。人工種苗の生存率の低さは、以前から業界で課題視されてきた。

 完全養殖の研究に取り組む国立研究開発法人「水産研究・教育機構西海区水産研究所」(長崎県)は「天然に比べて、人工種苗は1年後の生存率が低いのは確かだ」と指摘。要因の一つには「人工種苗は天然物よりもふ化の時期が遅くなり、体温の保持機能が発達せず、越冬できずに死んでしまうことが多い」ことを挙げる。

 関連会社が人工種苗生産を行っている県内の養殖業者も、人工の生存率の低さを指摘。さらに「人工種苗の個体はトロの部分が少なく、出荷した時の値段も安い」と、販売面の不利も口にした。

 高知県を含めて全国で人工種苗の開発が進んだ背景には、将来的に天然種苗が使えなくなる恐れがあったからだ。2012年には養殖向けの天然稚魚の投入数規制などがスタート。「当時は県内の養殖業者も天然稚魚が足りなくなる懸念があり、人工種苗への期待があった」(県漁業振興課)という。

 ところが、実際は天然稚魚の漁獲は安定し、不足する状況に至っていないという。県内4社は「天然稚魚で賄えている状況では、人工種苗を使うことにはならない」と口をそろえる。 

 稚魚の中間育成技術の確立にこぎつけたものの、販路が見つからなかった高知水産。担当者は「需要の見通しが全く見えない中では生産停止もやむを得ない」と唇をかみ、「今後、天然稚魚が足りなくなるような事態が起きれば、研究で得た知見を生かしたい」と話した。(五十嵐隆浩)

カテゴリー: 幡多高知のニュース

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