2019.12.07 08:00

【薬剤耐性菌】死者8000人の衝撃バネに

 抗生物質(抗菌薬)の効かない「薬剤耐性菌」によって2017年に国内で8千人以上が死亡したとの推計を、国立国際医療研究センター病院(東京)などの研究チームがまとめた。
 耐性菌の死者数を全国規模で調べたのは初めてで、8千人という数字にまず驚く。医療界や製薬会社、そして患者も、抗菌薬は本当に必要な時だけ使うという適正な使用を徹底する必要がある。
 薬剤耐性菌は遺伝子が変わって、感染症の治療に使われる抗菌薬への耐性を身につける。使い過ぎによって生まれやすくなり、拡大が加速する。免疫力が落ちた人や高齢者が感染すると、重症化して死亡するリスクが高まる。
 抗菌薬の誤った使用の代表例は、風邪という身近な病気だ。ほとんどの風邪はウイルスが原因で抗菌薬は効かないとされる。
 全国健康保険協会(協会けんぽ)の調べによると、風邪で医療機関を受診した患者に抗菌薬が処方された割合は、2017年度では奈良県が48・9%で最も高く、福井県が26・6%で最も低かった。高知県は41・2%で10番目と高めだった。
 患者側も意識改革が必要だ。内閣府の今年の世論調査では、抗菌薬が「風邪やインフルエンザなどの原因となるウイルスには効かない」と正しく理解している人は37・8%にとどまる。理解のない患者ほど、「もらった方が安心」と考える場合もあり、なかなか対策が進まない一因となっているようだ。
 政府も手をこまねいていたわけではない。薬剤耐性菌は国際的な問題であり、世界保健機関(WHO)は2015年、耐性菌を抑えるための「国際行動計画」を採択した。
 各国も行動計画を策定し、日本は2016年4月、2020年までの計画をまとめ、抗菌薬の使用量を「2013年の3分の2に減らす」と数値目標を掲げている。耐性菌に関する知識を広める「普及啓発・教育」や状況把握のための「動向調査・監視」など6分野で、具体的な取り組みを示した。
 薬剤耐性菌による死者数は、米国では年間3万5千人以上、欧州で3万3千人との推計が既に発表されている。日本も「8千人」という衝撃をバネに、薬剤耐性菌対策の徹底を図りたい。
 不必要な抗菌薬の使用では、薬の卸業者の販売データを基にした国内販売量が2013年から2018年にかけて10・7%減ったことが分かっている。実際に使われた量と同じではないが、おおまかな減少傾向がつかめる。だが、政府目標の「2020年までに3分の2」の目標は厳しそうだ。
 抗菌薬が必要な場合、医師が薬を正しく処方しても、患者の側が使い方を誤れば元も子もない。薬が十分に効く前に服用をやめ、別の時に使うと、ほかの菌を殺して耐性菌だけが増える恐れもある。処方された通り飲みきることも大切だ。
 薬剤耐性菌対策は、医療現場と患者が両輪で進めるものだ。

カテゴリー: 社説

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