2019.12.02 11:50

歌手からセクシー女優、そして… 異色キャリア歩む高知出身女性「逆境も力に」


「現役歌手がAVデビュー」2009年、大手スポーツ紙の一面を飾った高知出身の女性がいる。シンガーソングライターの大和姫呂未(やまと・ひろみ)さん。SNSのプロフィール欄では"特殊な経歴のアーティスト"と自称する。

「真面目でお堅い感じ」の家庭に生まれた大和さん。音楽の世界に強くひかれたのは、中学生時代。同級生からのいじめに悩み、毎日「死にたい」とノートに書き殴った。

傷ついた心の光となったのが、人気バンド LINDBERG(リンドバーグ)の存在だった。全身からエネルギーを発するように輝くボーカル女性を見て「自分もあんなふうになれたらって。存在そのものに憧れました」

変わりたい、という一心で高校受験に向け猛勉強。学年トップクラスにまで成績を上げ、難関校に合格した。手探りで曲作りも始め、充実した高校生活を送った。

人生のどん底から自分を変えた音楽の世界。「迷いも不安もなく、もう歌を歌って生きる道以外、考えられなかった。中学が死ぬほど辛かったから、この先何があっても生きていけるって、変な自信がついたのかも」と笑う。

高校卒業後、業界のツテも何もない状態でひとり上京。昼はアパレル販売の仕事をしながら、帰宅後23時ごろから曲作りに励んだ。小さなライブハウスやイベントには出演するものの、デビューはなかなか決まらなかった。

「デモテープは1カ月で100件くらい芸能事務所に送ってました。お金なかったし、すごい貧乏でしたよ。でも辛いとは思わなかった。好きな歌を歌って…楽しかったです、あの頃」

地道な努力を続ける中で縁があったのが、現在も所属している事務所。上京から約5年が過ぎていた。作曲のセンスや歌唱力を認められ、"事務所イチオシの存在"として、所属から半年というスピードで全国CDデビュー。遊園地を貸し切りにしてミュージックビデオ(MV)を撮影するなど、多額の資金と大勢のスタッフを動員し、華々しいスタートとなった。ところがー。

「全然売れなかったんですよ。3曲目くらいまで、すごいお金かけてプロモーションもしたんですけど、ほんとに売れなくて」

期待に応えられない自分を責めた。「何がダメなんだろう、何が足りてないんだろう、って」

2006年撮影
2006年撮影

事務所社長は「彼女はすごく真面目な性格。芸能の仕事なんて何がどう当たるか分かんない。気にするなって言ってたんだけど… 抱えちゃうんですよね」と当時を振り返る。

次第に拒食症のような状態になり、体重は37kgまで落ちていた。「誰も聴いてないのに歌っても意味がない」「私何やってるんだろう」心身ともに限界だった。

デビューから約3年。一時休業を決め、高知の実家で3カ月ほど過ごした。気付けば20代後半。この先の生き方を考えた。「もう歌手は無理かなぁって、高知で就職先も決めて。東京に荷物を引き取りに戻ったんですけど… やっぱり歌いたいって、思っちゃったんですよ。これで終わりなの?諦めるの?って」

思い出したのは、18歳で上京した時の強い気持ち。何があっても乗り越えられる。歌を歌って生きていく。

ただ、今までと同じことをしていても、人に届かない。だったらー。

一度は引退を考えた彼女が選んだのが、アダルトビデオ(AV)出演だった。実は休業する前に業界関係者から強いオファーがあり、約1年間悩んでいたという。


「いちばん届けたいのは歌ですけど、届けるにはまず知ってもらわないといけない。そう考えて、AV出演を決めました。当時は、現役の歌手がAVに出るっていうのが考えられない時代。話題性という意味ではかなり強かったんですけど… 自分にとっては、大きな賭けでした」

頭に浮かんだのは、歌手としての自分を応援してくれていたファンや、高知で暮らす家族のこと。「親には、申し訳ないなって…結局デビューのことは言わずに、黙ってました。妹にだけは打ち明けていて。お姉ちゃんのせいで迷惑掛けると思う、ごめんねって」

"絶対的に信じてくれる存在"だという妹は「私のことは全然気にしなくていい。思い切りやって」と背中を押してくれた。

覚悟を決めて臨んだデビュー作は、予想を上回る反響を呼んだ。スポーツ紙の一面掲載のほか、週刊誌はこぞってグラビア特集を組んだ。事務所のウェブサイトはサーバーがダウン。DVDは業界トップクラスの売上を叩き出した。

大ブレイクの一方で、バッシングの声も少なくなかった。「歌手として応援していたのに、裏切られた」「AVなんて出たら人生終わり」事務所のメールやインターネットの掲示板サイトで、心ない言葉を投げつけられた。

当時勤めていた職場の同僚からは「あなたと同じ空気を吸いたくない、今すぐ帰って」と言われ、そのまま退職となった。女優業と並行して歌手活動も続けたが、ライブハウスのスタッフや音楽関係者からは「AVやるような人とは一緒に仕事できない」と露骨に避けられた。「AV女優なんか呼ぶな」とクレームが入り、商業施設でのイベントが中止になったこともある。

「ピリピリしてましたね、あの頃は。性格悪かったと思います。でも、そのくらい強い気持ちを持ってないと、やってられなかった。自分の選択は間違ってないって、信じるしかなかった」

人気女優として約2年間活動するうちに、確かな歌の実力も世間に届くようになった。2011年に女優を引退し、シンガーソングライター大和姫呂未として再スタートを切った。以降、在京キー局テレビ番組のテーマソングへの起用や、有線チャート1位の獲得など、華やかな実績を積み重ねている。

事務所提供
事務所提供

現在は、全国で精力的にライブ活動を行うかたわら、ボイストレーニングの講師として次世代の歌い手を育てている。また、AV業界にいた経験をいかし、人気セクシー女優らを集めた音楽イベントの主催者も務める。プロデューサー兼チームキャプテンとして、40人以上の女性の中心になってステージを盛り上げている。

「歌を歌いたいとか、舞台に出たいとか、なにかしら人前に出て表現することに憧れながらAVやってる子、けっこういるんです」と話す。そんな彼女たちにとって、このイベントが夢をかなえる場にもなっている。

「辛いことがあると、糧(かて)にしなきゃと思うタイプ」と笑う。「女優時代も含め、私の生き様そのものを応援してくれるファンがいる。どんな時も、味方って絶対いるんですよね。これからも、私の歌を待ってくれている人に、音楽を届けたいです」輝く瞳は、まっすぐ前を向いている。(木田名奈子)

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