2019.11.10 08:00

【首里城の焼失】文化財守る詰めた議論を

 琉球王国から続く沖縄の歴史や文化を伝え、県民の精神的支柱でもある那覇市の首里城が焼け落ちて、10日が過ぎた。大きな喪失感が癒えないのは沖縄の人々に限らない。
 焼損は、琉球の国王が政治を執り行った正殿や行政施設の北殿、儀式の開催や来訪者の取り次ぎをした南殿など主要7棟に及んだ。
 正殿は、2層3階建ての造りや竜の彫刻を施した柱など琉球独特の意匠。中国の使節を迎えた北殿は中国風、薩摩藩の使節を迎えた南殿は日本の建築様式だという。
 かつて大海に交易を展開し、礼節を尊ぶ国として生きた琉球のしたたかさや配慮がうかがえる。
 首里城は廃藩置県で日本政府が軍隊を派遣し、最後の国王を追放するまで国の中枢だった。
 沖縄戦では旧日本軍の司令部壕(ごう)が造られたため、米軍の攻撃で全焼した。本土復帰20年の1992年に主要部分を復元。首里城跡を含む関連遺産群は世界遺産に登録され、沖縄観光を支えてきた。
 まさに沖縄の歴史や誇りとともに歩んできただけでなく、日本文化の多様性を語る建造物である。
 沖縄県は本土復帰50年に当たる2022年までに再建計画を策定する方針を示している。政府も支援に全力を挙げる姿勢だ。一日も早く作業を具体化してほしい。
 ただ、惨事を繰り返さないためには出火原因の究明が欠かせない。
 那覇市消防局は電気系統が濃厚とみている。正殿北東側の大型電気系統設備の分電盤に電気を引き込む配線と、分電盤から電源を取る延長コードにショートした可能性がある痕跡が見つかったという。
 損傷の激しさから調査は長期化する様相だが、再建計画には再発防止策が必須になる。徹底した解明が待たれる。
 首里城の焼失は、貴重な文化資産を守る防火対策のあり方にも課題を投げ掛けている。
 高知城など放水銃や消火器、消火栓はあっても、初期消火に大きな威力があるスプリンクラーが設置されていない城は少なくない。配管を通すための建物の強度や、誤作動した場合に建物や収蔵品が水損するリスクに課題があるという。
 また、国宝や国の重要文化財に指定されていない復元施設の防災対策にも一石を投じている。
 文化庁は4月のパリ・ノートルダム寺院大火災を受け、20年度予算の概算要求で文化財の防災対策を加速させる方針を示している。
 しかし、予算の制約から国宝や重文に指定されていない復元建物には国の補助がなく、所有者が対応するしかないのが実情だ。
 文化庁は、史跡などにある復元文化資産の防火体制を緊急点検するよう都道府県に通知した。行政を含め今後どういう支援が可能なのか、詰めた議論も必要になろう。
 そこに住む人の心のよりどころをどう守っていくか。惨事を教訓として生かさなければならない。  

カテゴリー: 社説


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