2019.11.08 08:45

読み苦手な子 早期発見を 専用教材「ミム」高知県の小学校で活用広がる

音に合わせて手をたたき、特殊音節を学ぶ児童たち(高知市のはりまや橋小学校)
音に合わせて手をたたき、特殊音節を学ぶ児童たち(高知市のはりまや橋小学校)
 文字を読むのが苦手な子どもを早期に見つけて指導する取り組みが、高知県内の小学校で少しずつ広がっている。専用の教材を使って読む力を把握し、イラストや手拍子などを交えて楽しく指導する。専門家は「知的な障害はないが、何回も書いたり読んだりする従来の学習では言葉を覚えられない子どもがいる。大人がそのつまずきに気付いてあげてほしい」と話す。

イラスト付きのカードを使った指導(仁淀川町の長者小学校)
イラスト付きのカードを使った指導(仁淀川町の長者小学校)
絵、手拍子交え楽しく指導
 山あいに段々畑が広がる吾川郡仁淀川町の長者地区。28人の児童が通う長者小学校の一室に元気な声が響く。

 「お・も・ちゃ!」「じ・どう・しゃ!」。学習支援員の手には、イラストと文字をあしらったカード。男の子が音に合わせて手をたたきながら読み上げていく。

 隣の男の子は「とけい」や「さんすう」などの平仮名を書いて練習中。それぞれのマス目の上にはイラストが添えられている。

 これらの教材は「多層指導モデル(Multilayer Instruction Model)」を意味する英語の頭文字から「MIM(ミム)」と呼ばれる。国立特別支援教育総合研究所(神奈川県)の海津亜希子・主任研究員が2010年に開発した。

 長者小学校は、2015年に高知県内では先駆的にミムを導入。1~4年生全員を対象に月1回のテストを行い、一人一人の読む力を点数で把握し、15分間の指導を週2回実施している。

 学習支援員の西森裕美子さんによると、ミムによる指導で「本読みがすらすらとできるようになり、算数などでも問題の意味が理解できるようになる」子どももいるという。

 片岡さえ校長は「学習につまずく理由を考える際、これまでは担任の主観になってしまっていた。ミムは読む力を客観的に判断でき、楽しく指導できる。学力が伸びた子もいます」と話す。

「早いうちに読みにくさを見つけることが大切」と話す松本秀彦准教授(高知市の高知大学)
「早いうちに読みにくさを見つけることが大切」と話す松本秀彦准教授(高知市の高知大学)
5~10%
 文部科学省の2012年の調査では、小学校で「学習面で著しい困難を示す」児童は5・7%いるとされる。

 特別支援教育が専門の高知大学教職大学院の松本秀彦准教授は、読む力が弱いために学習が困難になるケースがあると指摘する。「文字を流ちょうに読むのが難しい子どもは5~10%いるとも言われる」と話す。

 「よくしゃべれても読みがたどたどしい子。そういう子は平仮名という形を音に変換するのが苦手なんです。授業や宿題で何回音読しても読めるようにはならない」

 ただ、読むのが苦手でも小学1、2年生の時は周囲の大人が気付きにくいという。「教科書の内容を耳で覚えて暗唱してる子もいる。みんなと一緒に音読しているようで実は文字を読んでいないんです」

 それが、3年生になると漢字が増えるなどして覚えきれなくなる。「そうすると内容が分からなくなり、勉強がつらくなる。先生や親からは『頑張りなさい』『まだできてないの』なんて言われて。自信をなくして学校に行きたくなくなる。中には『授業を妨害してやれ』という子も出てきてしまう」

 松本准教授は、低学年のうちに読みづらさを客観的に把握できるミムに着目。教員らを対象にした研修会などで普及に努めている。

 現在は、仁淀川町の全3小学校と香美市の全7小学校のほか、高知市やいの町などで複数の学校が取り組んでおり、教員の認知度も上がってきたという。

動作と視覚で
 ミムは、読みでつまずきが多いとされる「特殊音節」に焦点を当てた教材だ。

 月1回ほどのテストで児童の読む力を把握し、さまざまな指導を行う。学級全体で行う場合もあれば、子どもの状況によって補足的な指導も行う。

 特殊音節とは、「っ」で表す促音や「ゃ」「ゅ」「ょ」の拗音(ようおん)、母音を伸ばす長音などのこと。これらは発音しなかったり、「きゃ」など2文字で発音が一つだったりと文字と音が一対一で対応しないため、つまずきやすいとされる。

 テストは「絵に合うことば探し」「3つのことば探し」=図参照=の2種類。それぞれ1分間で35問に取り組む。「絵に合うことば探し」は、イラストに合う言葉を選択肢から選ぶ。「3つのことば探し」は「ふくろけしきかたち」など、平仮名が連なった文を単語ごとに分ける。

 指導の大きなポイントは動作化。一音につき1回ずつ手をたたいて読ませ、「っ」は手をたたかずにグーの形にしたり、拗音はたたいた手をねじったり。体を動かして特殊音節のルールを学ぶ。

 そのほか、「きょうのきゅうしょく きゅうりとぎゅうにゅう」などの早口言葉を読み上げたり、視覚で理解できるよう記号やイラストを添えたドリルなどに取り組んだりする。数カ月の指導で読みが改善する児童もいるという。

通常学級こそ
 平仮名の読みが苦手だと、他の教科や日常生活にも大きく影響する。ミムを開発した海津さんは「学習でつまずいてから支援を始めるのではなく、通常学級でつまずかせないように効果的な授業を行うことが目的です」と話す。

 ミムによる指導で、読みが苦手な児童だけでなく、学力が上位の児童も読み書きの力などが向上したというデータもある。海津さんは「通常学級でも一人一人の実態をつかみ、個々に合わせた指導が教育効果を高める」と強調。「通常教育と特別支援教育との融合」の重要性を訴える。

 近年は自治体単位でミムを導入するケースも増え、全国では約30の市区町村が実施しているほか、鳥取県は県内全小学校で取り組んでいるという。

 高知大の松本准教授はこう話す。

 「小さい子は自分の見え方は他の人と同じだと思って、『僕できなくて困ってます』って言えない。だから大人が気付いてあげないといけない。たくさん読んだり書いたりしても言葉を覚えられない子は怠けてるわけじゃない。適切な方法で指導できることを知ってほしい」(山本仁)



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