2019.10.21 08:55

【地震新聞】TKBで避難所の環境改善の方策探る

地震避難所 変わらぬ光景
 身を寄せ合い、毛布にくるまり、疲れた表情を見せる人々―。
 
 1964年6月発生の新潟地震での避難所の写真(新潟日報提供)と、2016年4月に起きた熊本地震で撮影された避難所の光景を見比べてみる。
 
 避難所の環境整備は一定進んできたものの、被災者が雑魚寝をして過ごす姿は、新潟地震から半世紀過ぎた今も大きくは変わっていない。
 
 国内の医師や大学教授、弁護士らが2014年に「避難所・避難生活学会」を設立。今年6月に発表した緊急提言の前文で、〈わが国の避難所はこの100年近く変わりなく、諸外国の避難所と比較しても著しく劣悪な環境だ〉と指摘した。
 
 平成以降に発生した地震や豪雨で、避難生活中に「災害関連死」を認められた犠牲者は5千人近くに上る。環境が改善されないまま避難所生活が長期化すると、過度のストレスや持病の悪化を招き、「災害関連死」につながる恐れがある。
 
 「災害時だから仕方ない」「みんな我慢するのが当たり前」。避難所生活に対するそうした意識が、救えるはずだった命を失う結果を招いていないか。
 
 避難所・避難生活学会は避難所のあり方を根底から変え、関連死を防ぐための提言を行っている。キーワードは「TKB」―。

TKBで避難所充実
 避難所での生活をより過ごしやすくするために、医師や弁護士らでつくる「避難所・避難生活学会」が提唱するのが「TKB」の充実。「T」はトイレ(=排せつ)、「K」はキッチン(=食事)、「B」はベッド(=睡眠)。高知県内で進む取り組みや課題を取材した。

【T トイレ】清潔な環境整備を 県「50人に1基」計画
 トイレの確保は、災害後の避難生活で真っ先に直面する課題だ。高知県は地震後3日間は備蓄の簡易トイレなどでしのぎ、それ以降は仮設トイレを順次配備していく方針だ。

 内閣府は国際基準を踏まえた仮設トイレの必要基数について、災害直後は「50人に1基」、避難生活が長期化する場合は「20人に1基」と示している。

 県は今年3月に改訂した災害廃棄物処理計画で、それまで「避難者100人に対して1基」としていた仮設トイレの必要基数を「50人に1基」に改善。最大クラスの南海トラフ地震で想定される避難者数は約23万5千人で、4717基が必要になる。

 3月には仮設トイレの製造・レンタル会社と協定を締結。高齢者らに配慮し、和式トイレを洋式として使える付属設備も確保する予定だが、高知県環境対策課は「広域災害となる南海トラフ地震では、必要数をすぐに調達するには限界がある」とする。

 トイレの衛生環境が悪化すると、避難所にいる人は水分を取るのを控え、エコノミークラス症候群を発症する危険もある。トイレ環境を整えるには、各家庭での簡易トイレの備蓄や、汚物を一定容量ためられるマンホールトイレの整備も求められる。


【K キッチン(食事)】命つなぐ「食」大切に 栄養考慮し備蓄
 「偏った食事が続けば、肥満や塩分過多を招いてしまう。避難生活が長期化するほど、栄養バランスに気をつけないといけない」

 そう話すのは高知県栄養士会の森田陽子会長。避難生活中の食事はパンやおにぎり、カップ麺など炭水化物に偏りがち。特に高齢者ら要配慮者の食事には特別な支援が必要だという。

 森田会長らは熊本地震の際、東日本大震災を機に発足した日本栄養士会の災害支援チーム(JDA―DAT)の一員として被災地入りした。現地では高齢者から「弁当の食材が硬くて食べられない」との声があった。乳児を抱えた母親からは、ストレスから「母乳が出にくくなった」との相談もあった。

 そうした事態に対応するため、日本栄養士会は被災地に「特殊栄養食品ステーション」を開設することにしている。高齢者でものみ込みやすい食品やアレルギー対応食品、ミルクなどを提供する。

 森田会長は「普段から食べ慣れている物を食べられれば、心の安心につながる」とし、命をつなぐ「食」の大切さを強調する。平時から栄養のある食材を多めにストックし、使った分を買い足す「ローリングストック」が必要と訴えている。

【B ベッド(睡眠)】段ボール活用し安眠 保温、腰痛予防に効果
 大勢の人が行き交う避難所で雑魚寝の状態が続くと、床から巻き上がるほこりを吸い込んでしまい、呼吸器系疾患にかかる恐れがある。また、冷たい床の上で長時間座ったり、寝たりしていると、低体温症を招くこともある。

 そうした事態を防ぐため、近年の災害では避難所に段ボールベッドを設置する動きが進んでいる。高知県も2017年に西日本段ボール工業組合(50社所属)と協定を結び、市町村からの要望を基に必要数を確保したい考えだ。

 そうした行政の支援を待たず、空き箱を活用した即席の段ボールベッドづくりを提案しているのが、NPO高知市民会議理事の山崎水紀夫さん。

 作り方は、2リットルペットボトルの空き箱を縦に24個並べる。その上に平たくつぶした段ボールを敷けば体重が分散し、大人が数人乗っても壊れない強度のベッドができるという。

 高齢者でも立ち上がりやすいため腰痛を予防できるほか、段ボール内に空気の層ができるため保温効果もある。山崎さんは「公助には限界がある。ベッドは災害直後から必要となるため、要配慮者らのために空き箱を使った段ボールベッドを構えてほしい」と呼び掛けている。


「災害時は我慢」変えて 高知大・大槻准教授
 「『災害時だから仕方ない』という意識を変えていく必要がある」。そう話すのは高知大学の大槻知史准教授だ。今夏、数々の地震災害に見舞われてきたイタリアを訪れ、先進的な避難所運営の取り組みを視察した。

 2009年に300人以上が犠牲になったイタリア中部地震で、大きな被害を受けた同国中部のラクイラ市。地震の翌日には、30カ所の避難所に10畳ほどの広さがあるテントや簡易ベッド、シャワー付きのトイレ、温かい食事を提供するキッチンカーなどが届けられたという。

 「イタリアでは災害時でも日常と同じ生活を送れるための具体的条件が、国民の権利として法律で定められている」と大槻准教授。同国ではテントなど避難生活に必要な物資を24時間以内に提供する目標を掲げているという。

 日本の避難所については「『有事だから仕方ない』『我慢しよう』という意識が社会全体で共有されてしまっている」とする。

 津波から命を守るために避難タワーや避難路の整備目標を県が設けているのと同じように、「避難所のあり方についての達成目標を行政機関が設定し、日本独自のモデルをつくらないといけない」と強調した。

「TKBは必要なインフラ」避難所学会・榛沢特任教授
 「TKB」を提言している「避難所・避難生活学会」の理事長で新潟大の榛沢(はんざわ)和彦特任教授は、ベッドやトイレ、温かい食事の提供は「必要な防災インフラとして平時から備えておく必要がある」と話す。

 今回の台風19号の被災地では、避難所に来た高齢者が「洋式トイレがないから」と自宅に戻った事例も報告されているという。

 榛沢特任教授は「犠牲者の中には、避難行動を取るのが遅れて被災した人もいる。避難所での生活の質が保証されていれば、より早い避難行動につながるはずだ」とし、「TKB」を充実させる意義を訴えた。


《備防録》「贅沢」でなく
 内閣府の避難所運営ガイドラインは、目指すべき避難所の「質の向上」について次のように触れている。

 「『人がどれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送れることができるか』という『質』を問うもので、個人の収入や財産を基に算出される『生活水準』とは異なる考え方であり、『贅沢(ぜいたく)』という批判は当たらない」

 「TKB」の充実に向けて、誰が主体となってどのような備えをすべきか、今すぐに具体案を提示するのは難しい。ただ、災害関連死が繰り返されてきた現実を踏まえれば、避難所の「質の向上」は喫緊の課題といえる。

 一人一人が望む避難所の姿を話し合い、声を上げていく必要がある。それは「贅沢」ではない。 (海路佳孝)


排水溝を見回る森下広文さん (大豊町岩原)
排水溝を見回る森下広文さん (大豊町岩原)
《防災最前線》行動計画 見直し続く
岩原地区自主防災組織(大豊町)

 高知県長岡郡大豊町の岩原地区自主防災組織は、台風による土砂、風水害に備え住民の事前対応を時系列で定めた「事前防災行動計画(タイムライン=TL)」を導入している。岡崎博臣会長(70)は「運用しながら改善してきた」。策定から4年余りで精度は向上している。

 大豊町では2016年に行政や警察、消防などの関係機関の対応をあらかじめ決めるタイムラインを策定。これに対し、住民や消防団などの行動計画が地区タイムライン。モデルとなった岩原地区は全国で初めての事例となった。

 タイムラインは台風接近の3日前に始動。避難勧告などの発令に合わせてレベル5まで移行する。避難する場合、住民は班長らに報告し、避難先や避難完了情報などは役場や消防などの関係機関で共有する。防災行動は計49項目に上り、いざというときにバタバタすることがないように、チェックリストを全戸配布している。

 91世帯171人が暮らす急峻(きゅうしゅん)な徳島県境。前会長の森下広文さん(71)は「山崩れで孤立しても公助はすぐに受けられない。自助がないと厳しいと思った」と導入の経緯を話す。

 実際の運用で見つかった課題は改善。レベル2で住民が行う「台風対策の実施」は、物の飛散防止対策や排水溝掃除と具体的に追記。連絡手順も実態に即して変えた。森下さんは「住民にも浸透してきた。課題があれば見直すタイムラインに終わりはない」。 (嶺北支局・森本敦士)


そな得る(10)「防災マップで確認を
 南海トラフ地震が発生した時、自宅や家族が通う職場、学校の周辺ではどのような被害が想定されているか。そうした情報を知るのに役立つのが、高知県が2014年度から運用している高知県防災マップ( http://bousaimap.pref.kochi.lg.jp/ )だ。

 サイト内の「ハザードマップ」コーナーでは、住所を入力したり地図上から調べたい地点をクリックしたりすると、想定される震度や浸水深(地面から津波で浸水する海面までの深さ)、30センチの津波が到達するまでの時間、液状化の可能性などが確認できる。

 安政南海地震級で想定される浸水エリアや、過去の震災で起きた被災状況を記す古文書の内容や碑の位置も表示される。

 水害関係では鏡川、国分川、松田川の3河川の浸水想定区域が地図上で確認できるほか、土砂災害などの危険箇所も表示できる。

 「高知家の防災マップ」コーナーでは、地図上でクリックした地点で想定される震度や浸水深、標高などが一覧でき、避難場所までの最短ルートも表示される。家庭や職場で、避難場所やルートの安全性を確認するのに役立つ。

 「防災学習」コーナーでは地震や津波、液状化、土砂災害のメカニズムやハザードマップの活用方法などを学ぶことができる。

 今年の台風19号では、ハザードマップで示されていた河川氾濫の浸水予測エリアと、実際の浸水エリアがほぼ一致していた地域もあった。地震や水害への備えは、身の回りで想定される被害を知ることから始まる。県防災マップを確認し、災害時に迅速な避難行動を取る備えを進めてほしい。

カテゴリー: 社会地震新聞災害・防災


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