2019.10.08 08:37

辞書は言葉の地図 「大辞林」編集長・山本康一さん(南国市出身)講演

「辞書編集の基礎材料として使用例が一番大事。言葉が使われている証拠をつかむために日々メモしています」と話す大辞林編集長の山本康一さん(高知市追手筋2丁目のオーテピア)
「辞書編集の基礎材料として使用例が一番大事。言葉が使われている証拠をつかむために日々メモしています」と話す大辞林編集長の山本康一さん(高知市追手筋2丁目のオーテピア)
いにしえ人と現代人結ぶ
 多くの人が一度は手にしたことのある国語辞書。今秋、13年ぶりに第4版が刊行された三省堂の大型国語辞書「大辞林」編集長で三省堂辞書出版部部長の山本康一さん(53)=高知県南国市出身=が高知市内で講演した。「生活の中で出合う言葉に困らないように」(山本さん)との視点で編まれている大辞林や辞書について語った講演内容の要旨を紹介する。

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 私が三省堂に入ったのは1993年。以来、国語辞書に関わり続けています。最初の仕事が大辞林2版の改訂でした。大辞林は1959、60年ごろに企画が立ち上がり、1988年に初版、95年に第2版、2006年に第3版が出ました。

□工夫と知恵集積
 初版の編集長は「現代の辞書編集は企画が立てられると、編者を中心に編集委員会が構成され、出版社の編集部と組んで進められる」とし、「建築物に例えれば、編者は建築家、編集者は現場責任者」と語っています。編者の考えている辞書を具体的な形にするのが出版社の編集者の仕事です。

 日本で現存する最古の辞書である平安時代の「篆隷万象名義(てんれいばんしょうめいぎ)」は空海編と伝えられ、仮名ができる前なので漢字ばかりです。

 1100年ごろに作られた「類聚名義抄(るいじゅみょうぎしょう)」は仮名で書かれ、室町、江戸時代には今の辞書風になります。先人の知恵と工夫の集積という面が辞書にはあります。

 隠れたベストセラーと言われる辞書ですが、少子化やスマートフォンの登場で、市場は縮小傾向にあります。今回の改訂では、書籍版も電子版も辞書の本体と考え、力を入れました。書籍版は、類書最大級の25万1千語、電子版には27万語弱を収録しています。

□音もなく変わる
 「三省堂国語辞典」の編者の見坊豪紀(けんぼうひでとし)先生=故人=が「言葉は音もなく変わる」と言ったように、言葉は変化しています。

 例えば「驚く」は、私たちにとって「思いがけないことにあって落ち着きを失う」ということですが、一番古い意味は「目がさめる」。大辞林では、言葉の意味を現代から過去へと歴史をさかのぼる形で順に説明しています。

 音もなく変わる言葉を捉えるためには、常に言葉の現在を見つめなければなりません。私は毎日、新聞や街中で気になった言葉を記録しています。

 第4版では「エモい(心に響く、感動的である)」「インスタ映え」などの若者言葉も、日本語の広がりを捉えようと取り上げました。「AI」「TKG(卵かけご飯)」などのアルファベット表記語や、来日外国人が増える中、説明が難しい「接続語」なども充実させました。

 辞書は言葉の実態を映す「鏡」であり、言葉を正す「鑑(かがみ)」の役割もあると言われています。「鑑」としてどう記述するかは辞書によってさまざまです。

 言葉は人々の生活そのものです。日本語の総体を捉える国語辞書は、その言葉が使われている時代の記録であり、言葉の地図でもあります。言葉の位置を指し示すと同時に、古来の知恵の集積として、いにしえの人と今の人を結び付けるものでもあります。

 より定着度の高い精選された語を採録した書籍版と、より即時性を高め、新語の採録を追求した電子版の良さを感じ、ぜひ、両方を活用してください。(竹村朋子)

カテゴリー: 文化・芸能高知中央

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