2019.10.02 08:00

【ゲノム編集食品】消費者不在の「解禁」だ

 特定の遺伝子を改変する「ゲノム編集」技術を用いた食品の届け出と販売の制度が1日、始まった。商品は年内にも市場に出回る可能性がありそうだ。
 制度の大きな特徴は、大半の商品が安全性審査を経ず、厚生労働省への届け出によって販売できることにある。商品にゲノム編集食品である旨を表示する義務もない。
 安全性審査や表示が義務付けられた「遺伝子組み換え」食品とは大きく扱いが異なっている。これでは知らず知らずのうちに食卓に上り、口に入ることになりかねない。
 そもそもゲノム編集食品は本当に安全なのだろうか。消費者の理解は進んでおらず、不安も解消されていない。消費者不在の「解禁」であり、大いに疑問だ。
 ゲノムとは、DNAなどの生物が生きていくために必要な遺伝情報の一式を指す。生命の設計図と言ってもよい。
 そのDNAの狙った場所に切れ込みを入れ、特定の遺伝子が働かないようにするのがゲノム編集の代表的な技術だ。2012年に画期的な手法が開発され、家畜や植物の品種改良に加え、医療面への応用研究も急速に進んでいる。
 例えば、魚の筋肉の成長を抑制する遺伝子の機能を止めれば、肉付きのよい魚を養殖できる。同様にして有用成分を多く含むトマトを栽培することもできる。
 対して、遺伝子組み換え食品は、例えばトウモロコシに別の生物の遺伝子を組み込んで、害虫や病気に強くする技術だ。自然では起き得ない改変であり、健康や生態系への影響が指摘され続けている。
 厚労省は先月、ゲノム編集食品の取り扱い要領を公表。外から遺伝子を組み込まず、特定の遺伝子の機能を失わせただけの食品なら、安全性審査は不要とした。開発業者は厚労省への「事前相談」を経て、届け出をすればよい。
 特定の遺伝子の改変は、自然状態でも突然変異のかたちで起きるためだ。厚労省は突然変異を利用する従来の品種改良と「リスクは同程度」とする。
 消費者庁も、生産者や販売者に表示を働き掛けるものの、義務化は見送った。ゲノム編集か、従来の品種改良かは科学的に判別できないためという。
 だが安全性の評価はまだ早いとの声は少なくない。海外でも論議が続いており、欧州連合(EU)の司法裁判所は、ゲノム編集食品も遺伝子組み換えとして規制するべきだとの判断を示している。
 厚労省の意見公募では、日本の消費者も「長期的な検証をしてから導入すべきだ」「自然界で起きる突然変異と同じとは思えない」などと多くの懸念を寄せている。
 見切り発車は許されない。政府は技術や制度について説明を尽くし、少なくとも消費者がゲノム編集食品を購入する、しないを選択できる仕組みを整えるべきだ。

カテゴリー: 社説


ページトップへ