2019.09.21 08:42

【地震新聞】トイレの環境整備急務 災害関連死の原因にも

初月小に設置されたマンホールトイレ(高知市南久万)
初月小に設置されたマンホールトイレ(高知市南久万)
高知市でマンホール型設置進む
 南海トラフ地震など大規模災害後の避難生活で誰もが直面する切実な問題にトイレがある。トイレ環境が悪化した場合、感染症のまん延やエコノミークラス症候群の罹患(りかん)などさまざまなリスクが高まる。災害関連死を防ぐためにも、気兼ねなくトイレを使える環境整備が重要となる。 

 高知市は2017年1月、災害時のトイレ対策を考えるプロジェクトチームを庁内に立ち上げた。高知市では南海トラフ地震の発生の1日後、県内で最も多い16万5千人が避難所に避難すると想定されている。人であふれる避難所でトイレの機能をどう確保するか。チームは今年3月、長期浸水やライフラインの途絶などを前提に、対策のあり方を報告書にまとめた。

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熊本地震後、熊本市の中学校に設置されたマンホールトイレに入る車いすの高齢者。段差がなく利用しやすい(2016年4月)
熊本地震後、熊本市の中学校に設置されたマンホールトイレに入る車いすの高齢者。段差がなく利用しやすい(2016年4月)
 通常、トイレで使用した汚水は下水管を通じて終末処理場に運ばれ、浄化した後に河川に放流される。市内には下知、潮江、瀬戸の水再生センターと高須浄化センター(県管理)の4カ所に終末処理場があるが、いずれも長期浸水の想定エリアにあり、周辺の水が引かないと復旧作業にさえ入れないことになる。

 家庭などに設置されている浄化槽も停電時は稼働できず、汚物や津波による土砂を取り除いた上で点検を行う必要がある。

 こうした事情を踏まえ報告書は、発生後3日間は携帯トイレの使用を基本とする▽4日目以降は既設トイレの状況に応じて災害用トイレの設置などで対応する―とした。

 そこで高知市は携帯・簡易式トイレの備蓄を進めており、2019年3月末時点でマグニチュード(M)9級の地震で想定される避難者数(16万5千人)の44%に当たる量(1人分を1日に5回使用する3日分として計算)を確保している。それより規模の小さいM8・4級(想定避難者7万7千人)なら必要量の94%に当たる。

 仮設のトイレは協定を結んでいる県内外のレンタル会社4社からそれぞれ20~100基を提供してもらうことになっている。ただ、これはM9級で必要とされる1650基には遠く及ばない。

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 処理施設の復旧に時間がかかり、備蓄トイレが不足する状況を見据え、報告書が求めるのがマンホールトイレの整備だ。

 マンホールトイレは地下に汚物を貯留するタイプや、下水道管に汚物を直接落とすタイプなどがある。くみ取りや下水管に損傷がないことが前提となるが、仮設トイレなどに比べて容量が大きいのが強み。

 2018年9月、初月小学校(高知市南久万)の敷地内の地下に、貯留タイプのマンホールトイレ17基が整備された。災害時はマンホール中央部のふた(縦40センチ、横20センチ)を取り外し、上部に便座を設置すれば使用できる。工事費は200万円で、内部の容量は計180立方メートル。千人が約91日間使える想定だという。

 マンホールトイレの整備を検討する避難所として、報告書は指定避難所となる学校計39施設をリストアップ。現在、朝倉中学校と朝倉第二小学校で整備が進んでいる。

 高知市防災政策課は「熊本地震ではトイレを嫌がって水分を控え、エコノミークラス症候群を発症するなどトイレ対策の重要性が再認識された。災害関連死を防ぐためにも、マンホールの整備を着実に進めたい」としている。

対応担う「司令塔」明確に 日本トイレ研・加藤篤代表理事

 災害時のトイレ環境が悪化した場合に「命に関わる問題につながる」と指摘するのはNPO法人日本トイレ研究所(東京)の加藤篤代表理事(47)。事前に備えるべき態勢整備などについて話を聞いた。

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 普段私たちが使っている水洗トイレは電気、給水、排水設備、そしてプライバシーを守る空間から成り立っている。ワンタッチで用を足せる非常に便利なシステムだが、災害時にその一つでも動かなくなれば機能を失うという“弱さ”がある。

 災害に備えたトイレ対策を事前に考えておくべき理由は二つ。まず、避難所などでトイレが暗かったり、待ち時間が長かったり、男女共同だったりして使いづらいと、人はトイレに行くのを嫌がり、水分を取るのを控えてしまう。

 結果、血圧の低下や免疫力の低下を招き、脳梗塞やエコノミークラス症候群などの発症につながる危険がある。

 もう一つは、トイレが不衛生な状態が続くと、ノロウイルスなど感染症に罹患する恐れがある。被災後の生活で心身が弱っている時に罹患すれば、多くの人が集まる避難所で集団感染を引き起こしてしまう。

 熊本地震では、発生後6時間以内に7割の人がトイレに行きたいと感じたという調査結果がある。食事や医療は不衛生な環境では成り立たない。トイレ対策は被災者の命に関わる問題であり、災害後に真っ先に取り組むべき問題だと認識してほしい。

 そのために必要なのが、県だけでなく市町村のレベルで災害時のトイレ対応を担う「司令塔」を事前に決めておくことだ。

 トイレは上下水道のほか福祉や環境などあらゆる部門が関わる問題だ。住民からの困りごとを把握して発信したり、外部からの支援を受け入れたりする調整役を置き、窓口を一本化しておかないと対応がスムーズに進まなくなる。

 高知県では避難所を住民主体で運営するマニュアルづくりが進んでいる。被災者は避難後すぐにトイレを利用することになるので、役割分担を考える上で「トイレ担当」をより明確に想定しておかなければいけない。

 災害後に自宅で過ごす住民も、携帯トイレなどの備蓄は必要不可欠だ。自分たちが普段利用しているトイレの仕組みが下水道を使っているものか、浄化槽を使っているものか、トイレに関わるライフラインの仕組みを十分に理解しておいてほしい。

 地域の事情や被災状況に応じて、携帯・簡易トイレ、仮設トイレ、マンホールトイレなどを組み合わせた対応が必要となる。


《備防録》地獄絵図
 「まさに地獄絵図だった」。3年前、熊本地震で被災した住民は、水が流れない環境で住民が繰り返し使ったトイレの光景をそう表した。

 トイレ問題で重要なのは、単に簡易や仮設のトイレがあれば解決できる問題ではないということだ。汚物をどう処理するかだけでなく、避難所で男女別のプライバシーをいかに守るか。夜間用の照明をどう確保するか。要支援者が使いやすいトイレも必要不可欠だ。

 日本トイレ研究所の加藤篤代表理事は「不衛生な環境では食事も医療も成り立たない」と指摘する。県民一人一人がトイレが使えなくなったことを想像し、足らざる備えは何かを考えておきたい。「地獄」を繰り返してはならない。 (海路佳孝)

消火器やAEDの使い方などを学んだ避難訓練 (香南市野市町みどり野3丁目)
消火器やAEDの使い方などを学んだ避難訓練 (香南市野市町みどり野3丁目)
《防災最前線》訓練繰り返し共助確認
 みどり野地区自主防災・防犯連合会 (香南市)
 香南市野市町のみどり野団地の住民で組織する「みどり野地区自主防災・防犯連合会」は毎年この時期に避難訓練を行っている。非常食の炊き出しなど必ず取り組む訓練もある。和田達夫会長(72)は「基本は繰り返し。『一度やったらえい』でなく確認が大切。『正しく恐れる』を浸透させ、減災の意識を高めてもらいたい」と話す。

 地域の公園で今月14日に実施した今年の訓練には約150人が参加。香南消防署の署員による自動体外式除細動器(AED)と消火器の使い方講習では、「いつ買ったか分からない消火器がある。使用年月が過ぎても使えますか?」「実際にAEDを使わせてほしい」などと積極的に学んでいた。

 和田会長がこの団地に入居した40年ほど前は630世帯が住んでいたが、現在は580世帯ほどに減少。団地に住む人の高年齢化が進み、「地域防災が老老介助になっている」と和田会長。共助の仕組みが成り立たなくなることを危惧している。

 「ぼくら世代はまだまだ若手。75歳以上の方が300人以上いる」。そこで、連合会活動にも地域の子どもを巻き込むよう心掛けている。連合会が発足した2005年ごろに不審者情報が相次いだことから、地域の子どもたちと共に2カ月に1度、団地内をパトロールしている。

 今回の訓練にも多くの子どもが参加。和田会長は「今後は野市中学校の生徒とも連携し訓練していきたい」と話していた。 (香長総局・川嶋幹鷹)


そな得る(9)エコノミー症の予防を
 2016年4月に起きた熊本地震の死者数は発生から3年を迎えた2019年4月時点で273人(2016年5月の豪雨災害による死者5人を含む)に上った。

 このうち倒壊家屋の下敷きになるなどの直接死は50人。地震をきっかけに体調を崩したことなどによる震災関連死は218人で、直接死の4倍を超えている。その関連死につながる恐れがある症状の一つがエコノミークラス症候群(静脈血栓症)だ。

 避難生活などで長時間、同じ姿勢で過ごしていると、脚の静脈に血の塊(血栓)ができやすくなる。エコノミークラス症候群は、その血栓がはがれて肺などの血管を詰まらせることで発症し、呼吸困難や突然死を招く恐れもある。

 熊本地震では、余震を恐れて車中泊が続いたり、トイレに行くのを避けるため水分を控えたりしたためエコノミークラス症候群の発症が相次いだ。

 予防には水分を十分に取り、こまめに体を動かすこと。座ったままでも、足の指を閉じたり、開いたりする▽つま先を伸ばしたり、手前に引き上げたりする▽足首を回す▽ふくらはぎを軽くもむ―ことも有効とされる。

 近年、エコノミークラス症候群の予防策として注目されているのが「弾性ストッキング」だ。膝下までを覆うストッキングで、足首付近にかかる圧力が最も強く、上に向かって段階的に弱まり、心臓方向に血液を流れやすくする。全国では避難所に備蓄する動きもあるという。

 そのほか、人が動きやすいように通路幅を十分確保することや、水分を控えることがないようにトイレ環境を充実させるなど、避難所の環境整備もエコノミークラス症候群の予防につながる。

カテゴリー: 社会地震新聞災害・防災


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