2019.09.14 08:00

【諫早湾水門判決】地域の和取り戻してこそ

 長崎県の国営諫早湾干拓事業を巡り、潮受け堤防排水門の開門を命じた確定判決の無効化を国が求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は国の訴えを認めた福岡高裁判決を破棄、審理を高裁に差し戻した。
 排水門を巡っては漁業者が求める「開門」と、営農者が望む「開門せず」の相反する司法判断がともに確定している。差し戻しにより法廷闘争は長期化し「ねじれ」状態も続くが、分断された地域の混乱は深まっている。
 国は司法による解決とは別に、関係者と協議し決着点を探る努力を、より一層重ねるべきである。
 干拓事業は有明海の諫早湾で、農地確保と低地の高潮対策として1986年に着工。97年に湾奥部を約7キロの潮受け堤防で閉め切り、内側に農地と農業用水用の池を整備し2008年に営農が始まった。
 しかし堤防による潮流の変化などで漁獲が減ったとする漁業者と、開門で塩害などを懸念する営農者によって訴訟が乱立してきた。
 国は14年、開門を命じた確定判決の無効化を求めて提訴。福岡高裁は昨年、漁業者が開門請求の根拠とした「共同漁業権」について「更新期限の13年8月に消滅し、開門請求権も同時に失われた」との理由で国の勝訴とした。
 今回、最高裁は漁業権が一度消滅しても開門を求める権利は認められると判断し、高裁判決を取り消した。一方で「(確定判決は)時の経過による事情の変動で覆りやすい」とし、将来的には「開門せず」で統一される方向性を示唆している。ねじれ解消への意思を示したとみていいだろう。
 とはいえ、問題がここまでこじれたのは「開門」となれば営農者が、「開門せず」となれば漁業者がそれぞれ深い「傷」を負うためだ。司法の裁きだけでは解決に限界があることに変わりはあるまい。
 そうであるなら本欄でも指摘してきたように、国は漁業者と営農者の懸念に丁寧に向き合い、利害を調整する協議の場を設けるべきだ。もつれた糸をほぐすにはいま一度、仕切り直すしかない。
 確かにこれまでも司法が和解を勧告し、国も100億円の漁業振興基金の創設を提案したものの決裂に終わっている。和解は簡単なことではないが、粘り強く理解を求めていく必要があろう。
 そもそも開門は、有明海の漁場悪化の原因を調査するために行うものだ。漁業不振の原因が分からないまま問題を終結させて、有明海の再生は可能なのか。漁業者の不安は当然のものだろう。
 10年に開門を命じた高裁判決が確定したのは、当時の民主党政権が上告を断念した経緯がある。国が自ら確定させた判決を履行してこなかった揚げ句、それを無効化させようとするのも不誠実な対応といえよう。
 有明海という「宝の海」の豊かさと、地域の和をどうやって取り戻すか。国の責任は極めて重い。

カテゴリー: 社説


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