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2019.09.12 14:36

孤独の病・依存症 高知東生さんに聞く(7=終)誰でもそうなる可能性

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8月30日の講演会には大勢の聴衆が訪れた(高知市本町1丁目の高知商工会館=佐藤邦昭撮影)

 高知東生(たかち・のぼる)さん(54)=高知市出身=は、「この2年ぐらい、故郷に帰ることがずっと怖かった」と事件後の胸の内を語る。
 
  ◇  
 
 19歳で上京するフェリーに乗る前、仲間に「浦戸大橋通る時は出てこいよ」って言われてた。デッキに出たら、橋の上に100台近くのバイクがぶわーっと並んでて、ホーンとライトに見送られた。
 
 3カ月でホームシックになって帰ってきてしまった。親友が「家に泊まれ」って言うから行ったら、着いたとたんに「東京帰れ」ってぶん殴られた。
 
 殴った後に「足しにせえ」ってブタの貯金箱をくれた。「お前は俺らの夢も一緒に持って東京に行った。朝一で飛行機乗れ」って。小銭ばっかりで、2千円くらいしか入ってなかったわけだけど。
 
 逮捕後は、経営してたエステ店の後始末をして、女房にけじめもつけて、全部終わったら、死のうと思ってた。
 
 高知にはどうしても帰れなかった。「高知」って名乗りながら、しくじって、顔向けできなかった。
 
 昨年のある日、高知の後輩から、母親の墓が草ぼうぼうになってる写真が送られてきた。自分にとって、そこだけは弱点だったみたいで、久しぶりに帰ることに決めたけど、本当に怖かった。都会やマスコミ以上に、故郷の人に、どう思われているのかと。
 
 けど空港着いたら仲間が数え切れないくらい迎えに来てて、夜はメシ会開いてくれた。「人生一度くらい、誰だって失敗することはある。大事なのはここからやろ」って言ってもらった。いい年して涙が出た。
 
 高知での講演の話が来た時も怖くて、断ろうとも思った。でも半面、言葉でちょっと表現できないようなうれしい気持ちもあった。
 
 自分は間違った方向を選んじゃった。でも高知から都会に出た若者なら誰でもそうなる可能性があると思う。
 
 薬物だけじゃない。社会に出たばかりで、自分が憧れるような立場の人に勧められたら酒でも何でも断れない。上司から「飲めないのか」って言われて、期待に応えたくて泡吹くまで飲んじゃう。そんなことはいくらでもある。
 
 正直、まだ偉そうにアドバイスするような立場じゃない。病気と向き合いながらどう生きていくかを、自分も一生懸命勉強している最中で。
 
 (自分のような)結果が出てしまう前に、カミングアウトできればいいけど。今苦しいです、生きづらいですと言うことが恥にならないような、SOSが出せる世の中になればと思う。(構成・竹内悠理菜)
 
主治医・松本俊彦さんの講演から
 依存症の本質は快感ではなく、苦痛の緩和。ずっと続いている痛みや苦しみが一時的でも消えるので、手放せなくなる。
 
 実験では、1匹ずつせまい檻(おり)に入れた孤独なネズミの方が、広い場所で仲間と暮らすネズミよりモルヒネ水を多く消費した。孤独や不自由さを感じる環境の方が依存症になりやすいとみられる。
 
 依存症になったネズミを仲間と一緒の檻に入れると、普通の水を飲むようになる。依存症によって排除されない社会が必要だ。(国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長)

=おわり

連載「孤独の病・依存症 高知東生さんに聞く」全編はこちら!
(1)薬物を「やめられなかった」理由とは
(2)薬物との関わりを詳しく
(3)覚せい剤、どう使った?
(4)薬がコントロールできなくなり…
(5)任侠育ち 影響は?
(6)仲間と出会い、回復へ 
(7)誰でもそうなる可能性

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