2019.09.07 08:00

【北方領土の交渉】首相は現実を正直に語れ

 安倍首相は、ロシア極東ウラジオストクでプーチン大統領と会談した。議題は懸案となっている、北方領土問題を含む平和条約締結だ。
 プーチン大統領は1年前、「前提条件なしの条約締結」を提案。日ロ両政府は北方四島のうち歯舞群島と色丹島を引き渡すとした、1956年の日ソ共同宣言に基づき交渉を続けてきた。
 しかし、ロシア側は今年に入り、国後島と択捉島を含む北方四島が、第2次世界大戦の正当な結果としてロシア領になったことを日本が認めることが前提だと主張。以来、交渉は行き詰まっている。
 首相は6月に大阪で開かれた首脳会談で、条約交渉の大筋合意を目指したが不発に終わった。今回の会談でも「未来志向で作業を進める」方針で一致したものの、中身は乏しく進展はなかった。
 会談後、プーチン氏は東方経済フォーラムの会合で、条約締結には「多くの問題がある」と述べた。安全保障面で日本と米国との関係が障害になっているとの認識だ。
 ロシアは米国と現在、「新冷戦」ともいわれる深刻な対立状況にある。トランプ米大統領が仕掛けた中距離核戦略(INF)廃棄条約の8月失効はその象徴だ。
 米海軍が活動するアジア太平洋地域と、ロシアの防衛線に含まれる北方領土では、既に互いが軍拡競争を加速させている。プーチン氏は島引き渡し後の米軍展開の可能性や、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の日本導入を問題視する発言を再三してきた。
 こうした状況下でロシアは、北方領土に対する実効支配を着々と進め、誇示している。8月にはメドベージェフ首相が択捉島を訪問。プーチン氏は今回の首脳会談直前にも、色丹島に建設した水産加工工場の稼働式典にビデオ中継で参加し、祝福した。
 ロシアが日本に対し第2次大戦直後の歴史認識を問題にしたり、引き渡すとした色丹島の実効支配を誇示したりするのは、交渉の基礎とする日ソ共同宣言からも逆行しているのではないか。
 プーチン氏の強硬姿勢の背景には、北方領土の日本引き渡しに対するロシア国民の根強い反対がある。加えて自身の支持率も強権的な体制から低下傾向にあるからだろう。
 安倍首相はプーチン氏と通算で27回の会談を重ねてきた。首脳同士の個人的な信頼関係で北方領土問題の打開を図るというが、交渉は加速するどころか、現時点では後退しているのではないか。
 にもかかわらず首相は、先の参院選でも北方領土問題についてアピールすることを避けた。ロシアが北方領土を米国からの防衛線と位置付けている以上、交渉は膠着(こうちゃく)状態のまま動けまい。
 首相は現実を直視し、正直に語るべきだ。そもそも「日本固有の領土」としてきた4島返還を「2島を基礎」とした理由から聞きたい。

カテゴリー: 社説


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