2019.09.06 08:00

【香港条例撤回】「対話の道」を探りたい

 混乱が続く香港情勢の転機となるだろうか。
 香港政府トップの林鄭月娥行政長官が、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案の撤回を表明した。
 3カ月近く続く市民の抗議デモが、強硬一辺倒だった中国指導部から譲歩を引き出した形だ。民主的な選挙などを求めるデモ隊側は、なお抗議活動を続けている。香港政府が事態の収束を求めるのなら、対話の姿勢を維持し続け、市民の要求にさらに耳を傾ける必要がある。
 逃亡犯条例は、犯罪人引き渡し協定を結んでいない中国本土や台湾などにも、香港当局が拘束した容疑者を引き渡せる内容。反対派は中国に批判的な活動家らが本土に引き渡されると反発、若者を中心に抗議活動が活発化した。
 撤回は一つの成果ではあろうが、デモ隊側を満足させるものとはなっていない。
 条例改正について香港政府は早い段階で廃案方針を示していた。それだけに撤回しても「痛手」はさほど大きくなかったとも指摘される。ところが判断は大幅に遅れた。その間に警察が催涙弾などを用いてデモ隊を強制排除したり、多数の逮捕者が出たりしたことに対する市民の反発は積もりに積もった。
 その結果、デモ隊の要求は撤回のほかに警察の「暴力」を調べる独立調査委員会の設置や普通選挙の実現、逮捕者の釈放など計五つに拡大した。混迷が深まった要因には、香港政府や中国指導部の「手際のまずさ」が挙げられよう。
 現時点で林鄭氏は、調査委設置などには応じない構えを見せている。それで納得を得られるだろうか。
 現在、行政長官は親中国派が選ばれるような選挙制度となっている。誰でも立候補できる普通選挙の実現は5年前の大規模デモ「雨傘運動」以来、民主化を望む市民の願いであり続けている。そうした市民の不満や不信の「根っこ」に向き合わなければ、抗議活動は今後も繰り返されよう。
 林鄭氏は「争いを対話に換えよう」と述べ、政府と市民の対話の枠組みづくりも提起している。それ自体は評価できる。その枠組みでは、デモ隊側の要求すべてを俎上(そじょう)に上げて話し合ってもらいたい。
 デモ隊側にしてみれば、譲歩は条例改正案の撤回のみとする香港政府の姿勢では、容易に警戒を解けないだろう。武力介入をちらつかせる中国指導部が「後ろ盾」となればなおさらである。
 粘り強いデモの継続によって撤回を引き出したことで、勢いづいてもいよう。ただし一部の過激化した行為や、空港の占拠などには批判も向けられている。抗議活動はあくまでも冷静に、平和的に行わなければ支持や共感は失われていこう。
 選挙制度改革などは、政府との議論を通して勝ち取っていく。それも民主主義である。対話の道にどう踏み出すかも問われている。

カテゴリー: 社説


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