2019.08.31 08:00

【iPS角膜】安全性高め患者に希望を

 ほとんど目が見えなかった患者の視力が改善したというから画期的な臨床研究だ。多くの患者が、この発表に希望を感じたのではないか。
 人工多能性幹細胞(iPS細胞)からシート状の角膜組織を作り、目に重度の疾患がある40代の女性患者に移植する世界初の臨床研究を大阪大のチームがこの夏実施した。
 手術から約1カ月。眼鏡などを使えば日常生活に支障のない程度に女性の視力は改善した。拒絶反応なども起きていないという。
 角膜が腫瘍化しないかといった安全性や視力が保たれるかなど、長期間の経過観察がこれから必要だ。担当教授も「1例目が始まったばかりで慎重に見ていく段階」とし、あと患者3人を治療するという。
 角膜の病気は亡くなった人からの提供角膜による治療が一般的だがドナー不足で提供を待つ患者は多い。
 チームは、今回の手法を5年後をめどに実用化したいという。慎重な経過観察で安全性を高め、患者だけでなく、その家族らの期待にも応えてほしい。
 iPS細胞は、皮膚などの細胞に遺伝子を人工的に入れるなどして、さまざまな細胞に変化可能な力を持たせた細胞だ。
 京都大の山中伸弥教授のチームが2007年に人の細胞で作ることに成功したと報告し、12年にノーベル医学生理学賞を受賞した。病気やけがで失った臓器などを修復する再生医療の大きな柱となる。
 角膜疾患の治療前には、網膜の細胞を患者に移植する臨床研究や、パーキンソン病患者の脳に神経細胞を移植する治験が国内で行われた。今回と同様に経過観察が必要で、治療法などを改善する努力を研究者や医療関係者らには求めたい。
 山中教授の偉業から10年以上がたち、細胞の用途は広がっている。
 治療が難しい病気の患者の細胞からiPS細胞を作って病気の状態を再現し、薬を探る「創薬」分野でも細胞は生かされている。
 体の筋肉が動かせなくなる難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の進行を抑える働きが白血病の治療薬にあることが、細胞による実験で分かった。新たな治療につながる可能性がある。
 再生医療にとどまらず、滅んだ動物を復活させるといった研究も始まった。保存された細胞があれば、それを生殖細胞に変化させて人工授精する方法だ。さまざまな分野に応用できる可能性をiPS細胞は秘めている。
 これまで主に熟練者の手作業で行ってきた細胞の培養を自動化する装置を製品化したメーカーもある。そうした機器が医療現場や製薬会社に広く導入されれば、研究開発はさらに進化するだろう。
 これから大阪大の心臓病治療や京大の血小板輸血、慶応大の脊髄損傷治療といった計画が進む。国際競争が激しく、研究者は成果を要求されるが、安全性の確認を優先するよう改めて求めたい。 

カテゴリー: 社説


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