2019.08.24 08:00

【日韓協定の破棄】誰が「得」をしているのか

 不安定さを増す北東アジアの安全保障環境を踏まえた判断とは思えない。韓国の文在寅(ムンジェイン)政権は現実を冷静に見極めているのか危惧する。
 文政権が更新の期限が迫っていた日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄することを決め、日本政府に通知した。
 GSOMIAは互いの軍事上の機密情報を提供し合う際、第三国への漏えいを防ぐための協定だ。2016年11月、北朝鮮の急速な核・ミサイル開発を背景に締結された。
 協定は日米韓の機密情報共有の要になっていた。北朝鮮の軍事情報は米国の軍事衛星、日本の電波傍受や情報衛星、韓国の地上レーダー網などで収集。日韓間では今年だけで7回情報が共有された。
 協定が破棄されても米国を介した情報共有は続く。ただ、韓国が日本との協力を拒むという明確な意思表示になる。対北朝鮮の協力をはじめ北東アジアの安保情勢に悪影響が出かねない。
 日韓両国は昨年来、元徴用工問題や輸出規制強化を巡って対立が先鋭化してきた。今回の措置は、歴史問題から通商分野に飛び火した対立の中、文政権が安全保障分野まで絡めてカードを切った形になる。
 しかし、安保上の合理性よりも日本への対抗姿勢を優先させることが現実を見据えた冷静な判断といえるだろうか。米国も協定破棄を受け、北東アジアの安保問題に対する文政権の「思い違い」と批判。失望や懸念を示している。
 米朝の非核化協議は進展せず、北朝鮮は7月以降、韓国全域と日本の一部も射程に入る可能性がある短距離弾道ミサイルなどの発射実験を繰り返している。日韓のGSOMIAも早急な破棄を主張してきた。「北朝鮮を利するだけ」という指摘は当然だろう。
 日米韓による安保連携体制のほころびを凝視しているのは北朝鮮だけではあるまい。
 7月には中国軍機と合同パトロール飛行をしていたロシア軍機が島根県・竹島周辺の領空を侵犯した。竹島周辺の緊張を高めて日韓の対立をあおり、日米韓の安保体制を弱体化させる狙いが指摘される。
 日韓の対立で文政権が強硬姿勢を崩さないのは、来年4月の総選挙をにらみ、弱腰との批判を避けたいためとされる。国内の「反日」感情をあおって、支持基盤を固めるような手法は厳に慎むべきだ。
 安倍政権でも「嫌韓」世論に応えるような保守系議員の言動が相次いでいる。ただ、対立は訪日客数の鈍化など経済面のほか、自治体や民間交流にも影を落としている。
 北東アジア情勢も含め、日韓の対立で誰が「得」をしているのか。そろそろ両国政府とも冷静に考えるべき時期ではないか。
 両国外相は、元徴用工問題の解決に向けて外交当局間で意思疎通を続ける方針では一致している。負の連鎖の打開へ、糸口を探る姿勢を双方の政府に求めたい。 
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〈 2019.8.24 〉

カテゴリー: 社説


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