2019.08.12 08:00

【裁判記録の廃棄】「保存重視」にかじを切れ

 最高裁は一審、二審を経て上告のあった裁判記録を審理する、文字通り司法の最高機関だ。重要な裁判の判決は、しばしば判例として引用される。
 最高裁は全国の裁判所を統括するが、特に重要な憲法裁判の記録が、各裁判所で多数、廃棄されていたことが分かった。裁判所の規定では事実上の永久保存に当たる審理過程の記録が永遠に失われた。その損失はあまりにも大きい。
 最高裁をはじめ全ての裁判所は、規定違反の疑いが強い記録の廃棄を猛省し、後世の検証に耐えうる体制を築き上げるべきだ。
 共同通信が日本を代表する憲法判例集に掲載されている137件について調査した結果、廃棄は86%を占める118件。米国などの基準で原則永年保存に当たる「特別保存」はわずか6件だった。
 廃棄された裁判記録の一つに、一審札幌地裁で自衛隊に違憲判決が出た長沼ナイキ訴訟がある。自衛隊の基地に反対する地元住民が起こした訴訟で、最高裁は二審判決を支持してこの訴えを退けた。
 だが、より重要なのは判決などの結論文書ではない。合憲か違憲かが争われるなかで、訴状をはじめ原告や被告が出した書類、法廷でのやりとりなど全てをとじた文書である裁判記録が不可欠だ。
 廃棄されたのは、ほかにも薬局開設の距離制限を定めた法律を違憲とした訴訟や、公立中での生徒の思想信条の自由が論じられた内申書の訴訟などがある。憲法裁判は平和、男女平等、表現の自由など、戦後日本社会のルールを、幅広い分野にわたって作ってきた。
 その検証には、審理の過程を記録した文書が必要になる。廃棄の理由について最高裁は、記録を一審の裁判所に戻して保存することから「各裁判所の判断」と説明する。
 だが、その記録が重要かどうかを把握できる立場にあるのは最高裁だ。特別保存する分類として「重要な判例となった」「世相を反映し、史料的価値が高い」などの基準を自ら定めている。
 専門家は、最高裁が各裁判所に記録を戻す際、判断を裁判所任せにせず、特別保存すべきものを指示する仕組みを設けるべきだと指摘する。最低限の再発防止策だろう。
 さらに、重要な裁判記録は憲法裁判に限らない。最高裁が全国の高裁、地裁、家裁にある特別保存記録の件数を調査した結果、その総件数は440件にとどまった。あらゆる裁判の膨大な記録の数と比較して、特別保存は極めて少ない。
 このことは司法文書だけでなく、行政文書の管理の甘さ、ずさんさにも通じる問題だ。最近でも森友学園を巡る、財務省の決裁文書改ざんという前代未聞の不祥事が起きた。
 公文書は権力を検証・監視する民主主義の根幹であり、国民の貴重な共有財産だ。安易な廃棄や隠蔽(いんぺい)は許されない。管理する側は保存重視の徹底に大きくかじを切るときだ。

カテゴリー: 社説


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