2019.08.08 08:35

ただ今修業中 バス運転手・新屋弓華さん(24) 南国市

「重圧はあるけど楽しい」と話す新屋弓華さん(高知市桟橋通4丁目のとさでん交通)
「重圧はあるけど楽しい」と話す新屋弓華さん(高知市桟橋通4丁目のとさでん交通)
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乗り心地 負けたくない
 朝6時、あちこちからぷしゅー、がたがたっと、荒い鼻息や身震いのような音がする。出発を待つバスが駐車場に並ぶ高知市桟橋通4丁目のとさでん交通。5月に運転手として独り立ちしたばかりの新屋弓華さん(24)が金づちを手に点検を進めていた。

 タイヤの空気圧やエンジン、電気系統をチェックし、事務所へ。点検表を受け取る社員から「頑張れよ」の声が掛かる。

 「はい、行ってきまーす」

 運転席で制帽と白い手袋を身に着け、大きなハンドルを回す。駐車場から出るまではゆっくりバスを動かす。

 「クラッチとかブレーキの利き具合とか、一台一台で特性が違う。お客様に心地よく乗ってもらうために、ここで感覚をつかんでおくんです」

 高い座席から見渡す景色は「最初怖かった」という。慣れてきた今は「視界が広くて楽しい」と声を弾ませる。

 ◆

 18歳の時、「苦手な接客をせず、1人で集中する仕事がしたい」とトンネルの点検を行う会社に就職した。全国各地でハンマーや電気工具を扱う力仕事を5年続け、体力的に疲れを感じていたころ、現場で大型トラックを見て「でかい車に乗るのっていいなあ」と憧れた。

 祖父もバス運転手。ならば自分も、と決意し、昨年12月、とさでんに転職した。社の支援制度を利用して大型2種免許を取得した後、1月から「独立試験」に向け、教官の社員が付きっきりの現場研修に臨んだ。

 県内の路線は96コース。バス停は1341カ所もあり、停車位置も安全上の理由などで異なる。コース上の注意ポイントに加え、乗客のことを考えたブレーキやアナウンスのタイミング、時刻表通りの走行…。「覚えることが山ほどあった」

 子どものころから負けず嫌い。小学生でテコンドーを習い、高学年の時に全国大会で3位になったこともある。コースを覚えられないのが悔しくて、仕事後の夜中や休日に自分の車で何度も回った。

 4カ月後、見事試験に合格。高速バスなどを含むとさでんの運転手約230人のうち20代は4人目、女性では6人目だ。

 ◆

 「お待たせいたしました。おはようございます」

 最初の乗客にアナウンスする。1日の運転時間は主に4~7時間。「人を乗せる重圧はずっとある」という。

 特に神経を使うのが、バス停の乗客の有無。少し離れて待っている場合もあり、夜は見落とさないよう目を凝らす。「仕事で落ち込むことがあると、自宅に帰る車で音楽をがんがんかけてストレスを発散する。運転に支障が出ると困るので、1日で切り替えんといかん」と笑う。

 最近、帰り道で喜びをかみしめる出来事もあった。乗客が顔を覚えてくれ、「頑張りよ」と声を掛けてくれた。「すごくうれしかった」。今の目標を聞くと「他の運転手よりいいと思ってもらえるように、乗り心地とアナウンスで勝負する。負けるの嫌なんで」。

 ゆっくり停車し、最初の乗客が降りていく。掛ける言葉は毎回その場で考える。

 「ありがとうございます。お気を付けて」

 勝ち気な性格からは遠いような、優しい声が車内に響いた。

 写真・反田浩昭
 文 ・福田一昂

カテゴリー: 社会香長

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