2019.08.03 08:00

【FRBの利下げ】中銀の独立性を危惧する

 利下げの「副作用」とともに、政治に左右されてはならない中央銀行の独立性が危惧される。
 米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)が10年7カ月ぶりに政策金利の引き下げにかじを切った。リーマン・ショック後の景気後退を食い止めるために、事実上のゼロ金利政策に踏み込んで以来の利下げになる。
 米国経済は当時とは状況が全く異なる。ことし4~6月期の実質成長率は2・1%と底堅く、失業率も低水準で推移している。
 丸10年という過去最長を更新する景気拡大局面で、景気を刺激する利下げという判断は従来の金融政策とは異質である。
 パウエル議長は先行きの不確実性に対応し、景気の腰折れを防ぐ「予防的措置」と説明している。
 確かに、世界経済は近年になく下振れリスクを抱える。米中貿易摩擦は収束の見通しが立たず、中国の成長鈍化は鮮明だ。米国内の物価上昇率もFRBが目標とする2%を下回り続けている。
 とはいえ、好況時の利下げは副作用を伴う。金融市場などで景気が過熱する「バブル」を引き起こす恐れがあり、景気後退時の利下げの余地も失う。FRBは今後、なお慎重な政策運営を迫られよう。
 さらに問題が多いのは、トランプ米大統領がツイッターを使った「口先」攻撃や、議長解任をちらつかせるといった人事権を絡めた手法で、FRBに露骨に政治圧力を強めてきたことにある。
 トランプ氏は、パウエル氏が追加利下げに慎重な姿勢を示したのに対し、すぐさま「われわれをがっかりさせた」と批判。さらなる利下げを要求している。
 再選を目指す来年の大統領選で有利になるよう、高い株価や経済成長率を自らの実績として誇示したい思惑が透ける。
 中央銀行には物価の安定という役割が課せられている。中銀の独立性が損なわれて政治の圧力に屈し、ゆがんだ金融緩和策が続けば、物価の急騰を招き、景気が悪化する可能性もある。
 そもそも、米国経済のリスク要因になっている米中貿易摩擦を仕掛けたのはトランプ政権である。FRBに景気の責任を押し付けるのは筋が違う。トランプ氏は選挙至上主義の利己的な言動を直ちにやめ、FRBの独立性を尊重すべきだ。
 世界の中央銀行も軒並み金融緩和に向かっている。主要中銀では、欧州中央銀行(ECB)が9月にも利下げを実施する構えだ。
 日米間をはじめ国内外の金利差が縮小すれば、円高圧力が強まるのは間違いない。日本の輸出企業は収益が圧迫され、国内の景気も不透明感が強まろう。
 日銀の政策金利は既にマイナスとなっており、金融機関の収益圧迫などの副作用も無視できなくなっている。緩和余地の乏しい日銀は正念場の政策運営を問われる。
カテゴリー: 社説


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