2019.07.31 08:00

【萩生田氏発言】背後に透ける首相の焦り

 この人は自分の政治的立場をどのように理解しているのだろう。自民党の萩生田光一幹事長代行のことである。
 萩生田氏は先日のインターネット番組で、憲法改正論議が停滞するのであれば、大島理森衆院議長を代える必要があるとの認識を示した。
 「今のメンバーでなかなか動かないとすれば、有力な方を議長に置き、改憲シフトを国会が行うのは極めて大事だ」と述べた。
 衆院議長の交代は、衆院解散・総選挙の後に実施されるのが通例だ。国会が決める「三権の長」の重職を、人事権もない一政党の幹事長代行が差配できるかのような発言は、全く理解できない。
 この発言には与党の自民、公明両党からも「賛同できない」「首をかしげる」などの疑問が出ている。立憲民主党や共産党など野党側は、萩生田氏が安倍首相の側近であることから、「首相周辺の議員らの傲慢(ごうまん)さが極まっている」などと強く批判している。
 発言を巡ってはその後、自民党の二階幹事長が「立場を考えて慎重に発言するように」と注意した。萩生田氏は出演したインターネット番組について「言葉足らずで誤解を与えた」と釈明したという。
 この程度の身内同士のやりとりで、幕引きが図れるだろうか。とてもそうは思えない。
 記憶に新しいのは昨年11月、同じ首相側近の下村博文・自民党憲法改正推進本部長が、憲法審査会の早期開催に応じない野党の姿勢を「職場放棄」と発言。内定していた憲法審幹事の辞退に追い込まれた。
 憲法審の議論が進まない理由は、野党の抵抗だけではあるまい。何としてでも自らの手で憲法改正を成し遂げたいという、首相の意を酌んだ側近たちの発言が、野党の態度を硬化させているのではないか。
 さらに萩生田氏の国会介入ともいえる発言は、立法、行政、司法という三権分立の均衡をゆがめかねない。これも「安倍1強」体制のおごりの反映ではないか。
 行政府の長である安倍首相は、かつて立法府の国会で「私は立法府の長だ」と何度も言い間違えて、訂正している。勘違いか、そう信じ込んでいたのか、内心は分からない。
 先の参院選で首相は改憲について「議論する政党を選ぶのか、審議を全くしない政党を選ぶのか」と野党を挑発した。だが選挙結果は自民、公明両党、日本維新の会などの「改憲勢力」が、国会発議に必要な3分の2の議席を割り込んだ。
 首相は「少なくとも改憲論議は行うべきだという国民の審判が下った」と主張した。しかし世論調査で最優先課題に選ばれたのは、年金など社会保障、景気・雇用と続き、憲法改正は最下位の6位だった。
 改憲を急ぎたい首相と、急がないという民意の間には大きな隔たりがある。そんな中で飛び出した側近の暴論の背後には、首相の焦りのようなものが透けて見える。 

カテゴリー: 社説


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