2016.02.14 14:52

重力波観測に高知県出身の山本博章さん 「きれいだった」

米西部ワシントン州の観測装置がとらえたとされる重力波の分析図。時間の経過とともに高い周波数の成分が多くなったことを示しており、その形状から記者会見では「バナナ」と呼ばれた (山本さん提供)
米西部ワシントン州の観測装置がとらえたとされる重力波の分析図。時間の経過とともに高い周波数の成分が多くなったことを示しており、その形状から記者会見では「バナナ」と呼ばれた (山本さん提供)
 「重力波」の観測に成功したアメリカの研究チームに、高知県出身者が加わっていた。カリフォルニア工科大学の上級研究員、山本博章さん(64)。100年前にアインシュタインがその存在を予言し、世界の科学者を興奮させる今回の偉業について、高知新聞の電話取材に応じた山本さんは「予言されていた重力波の形状とぴたり重なる。(重力波に)間違いない。すごくきれいな波形だった」と語った。宇宙の謎の解明にまた一歩近づく発見にも、終始、穏やかな口調だった。

重力波を初観測した国際実験チーム「LIGO」に参加している山本博章さん
重力波を初観測した国際実験チーム「LIGO」に参加している山本博章さん
 高知県吾川郡いの町出身の山本さんは、高知学芸高校から東京大学に進んだ。東大大学院の博士課程修了後、30歳でアメリカの研究所へ。そこでの実験生活を経て1991年に重力波の研究拠点であるカリフォルニア工科大学に移り、1994年からこの研究チームに加わった。

 ■  ■ 
 山本博章さんは、重力波を観測した「LIGO(ライゴ)」という巨大な観測装置の設計を担当してきた。LIGOは、直角に伸ばした縦横各4キロのアーム間でレーザー光を反射させ、重力波が届くと時空のゆがみで生じる反射時間のずれを検出する、という仕組みだ。

 ただ、地球に届く重力波はごく弱い。

 山本さんによると、石英で作られた鏡の表面は「10億分の1メートルの凸凹があっても駄目」だった。「こんな計算ができるソフトはマイクロソフトも売ってない。自前でシステムを作るしかなかった」と振り返る。

 どの程度の滑らかさなら、どんなずれが観測できるのか。鏡を完全に静止させるにはどんな対策が必要か―。

 コンピューターを駆使してシミュレーションを繰り返し、アメリカ西部ワシントン州と南部ルイジアナ州にある2カ所のLIGOの研究者にデータを伝え、改良を重ねてきた。

 チームが今回観測した重力波は、地球から13億光年離れたブラックホール同士が合体した際のものとされる。「太陽3個分が消滅するのと同じエネルギーが放出されたが、つかめた時空のずれは『一つの陽子の1万分の1』ほど」という。

 2015年9月、二つの観測所から送られてきたデータが特徴的な形状を描いた。時間の経過とともに周波数が高くなるという独特の痕跡。待ち焦がれた結果は、その形状から記者会見で「バナナ」と呼ばれた。

 「(誤感知の)雑音のデータとははっきり違う。見間違いようがない。すごくきれいに写ってた」

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 山本さんの実家は電気店。それでも、「高校時代は物理に特に興味なかった」と電話の向こうで笑った。

 転機は大学1年で受けたアインシュタイン理論のセミナー。「なんてきれいな学問なのか」と心が動いた。

 「3カ月のつもりでアメリカの研究所に行って、気がつけば30年たっていた」

 重力波の検出装置はイタリアのほか、日本にもある。東大宇宙線研究所が中心になって2016年春から稼働させる観測装置「かぐら」(岐阜県飛騨市)。山本さんは専門のシミュレーションで時折、日本チームも手伝っているという。

 「『かぐら』を加えて3カ所で観測できれば、重力波がどこから来たか特定でき、発生原因も詳しく分かる。LIGOもまだ設計上の性能の3分の1ほどしか出せていない。かと言って、レーザーの出力を上げると、鏡の震動対策に変形対策に…と計算対象がいくらでも出てくる」

 研究者としてさらに忙しくなりそうで、2016年7月にはLIGOの出力を2倍に上げた実験が始まるという。

 「正しい予言を出すのが私の仕事。アイデアはいくらでもある。でも、易しい道じゃありません」


■重力波■
 宇宙空間のゆがみがさざ波のように伝わっていく現象。100年前にアインシュタインが一般相対性理論で存在を予想した。宇宙誕生時に放出されたほか、二つの重い中性子星が互いを回り合う連星やブラックホールの合体、超新星爆発などでも生じると考えられている。1993年、星の軌道分析から存在を証明した米国の研究者2人がノーベル物理学賞を受賞した。

カテゴリー: 主要環境・科学


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