2019.06.13 08:00

【老後報告書拒否】逃げずに議論と説明を

 自ら諮問した審議会の報告書を、選挙に都合が悪いからといってなかったことにするのは、聞いたことがない対応だ。
 95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要だと試算した金融庁金融審議会の報告書について、麻生金融担当相が受け取りを拒否する異例の事態になった。
 報告書は「人生100年時代」の備えとして、公的年金だけでは老後の資金を賄えないことを認め、国民に計画的な資産形成など自助努力を促す内容だった。
 当初は追認するかのような発言もしていた麻生氏が受け取りを拒否したのは、「政府の政策スタンスと異なる」のが理由という。報告書は実質的な撤回に追い込まれた。
 麻生氏だけではなく、政権与党はこぞって不安や誤解を招いたとして金融庁を批判。参院選を前に持ち上がった「年金不安」の早期火消しに躍起だ。
 ただ、少子高齢化が進む中で、国民は年金制度の持続性や将来的な給付水準への不安を持っている。
 報告書は、年金頼みの限界を直視した問題提起ともいえる。封殺するのではなく、正面から受け止めて議論と説明を尽くすのが政治の責任ではないか。
 年金制度は少子高齢化の急速な進行で「支え手」が減り、「支えられる側」が増えている。政府は世代間の負担格差を和らげるため、2004年の制度改革で「マクロ経済スライド」と呼ばれる給付の抑制策を導入している。
 これによって高齢者が受け取る年金額は徐々に目減りしていく半面、政府は公的年金財政を「100年安心」と触れ込んできた。
 2千万円もの蓄えという自助努力を促す金融庁審議会の報告書は、こうした政府の立場と矛盾するとの疑念を広げている。
 国会では、野党が「100年安心」に疑義が生じたと追及。安倍首相はこれに反論し、「将来の世代も含め、皆さんに安心してもらえる制度になっている」と説明した。
 「安心」であるのならば根拠を示すべきだが、政権の対応には他にも疑問がある。経済状況や人口、雇用情勢の変化を踏まえて年金財政の健全性をチェックする5年に1度の「財政検証」がまだ公表されていないことだ。
 検証は、経済成長のパターンごとに現役世代の平均手取り収入に対する厚生年金の給付水準を示す。政府は50%を確保すると説明しており、前回は14年6月3日に公表された。
 政府は「必要な作業が終わり次第公表する」と説明しているが、時期は明言していない。参院選への影響を懸念して公表を先送りしているとすれば、これも国民に対して誠実さを欠くのではないか。
 不都合な要素を封じ込めようとする政権の選挙至上主義には批判の声も上がっている。国民の不安と向き合い、逃げずに議論と説明を尽くすべきだ。
カテゴリー: 社説


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