2019.06.05 08:00

【老後の「自助」】社会保障の再建まず示せ

 国が自助努力の推奨に傾くばかりでは、国民は安心して老後の人生を見通すことができない。
 金融庁の金融審議会が、老後の備えとして国民に計画的な資産形成を促す報告書をまとめた。夫婦のみの世帯では、年金だけでは老後の資金を賄えず、95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要と試算している。
 厚生労働省の2016年の調査では、65歳以上世帯の平均所得のうち65%が「公的年金・恩給」だった。収入が年金と恩給だけの世帯も過半数に上り、年金への依存度は高い。
 しかし、少子高齢化は急速に進んでいる。「支え手」が減り、「支えられる側」が増える中で世代間の負担格差を和らげるため、政府は04年に「マクロ経済スライド」と呼ばれる抑制策を導入している。
 これによって高齢者が受け取る年金額は徐々に目減りしていく半面、政府は「公的年金財政は100年安心」とも触れ込んできた。
 年金だけでは老後を賄えないと認め、「自助」を強調する政府の姿勢は、特に今後何十年間も保険料を支払う若者世代にとって、失望感や不安感を招くのではないか。
 金融庁の報告書は、年40万円を限度に投資で得た利益が最長20年間非課税となる「つみたてNISA」など資産運用を促すが、当然、損失リスクも伴う。老後の「自己責任」を求める政府の思惑がにじむ。
 一方、自宅で現金を保管する「たんす預金」は右肩上がりで、今年1月時点で50兆円を突破したという。
 「人生100年時代」への一般家庭の不安が表れているとすれば、長く指摘されてきた少子高齢社会の課題に、政府が有効な手だてを打ってこなかった証左といえる。
 老後の「自助」がキーワードの政策は矢継ぎ早に打ち出されている。
 政府は先月、希望する人が70歳まで働き続けられるよう、就業機会の確保を企業の努力義務とする方針を明示した。来年の通常国会に高年齢者雇用安定法の改正案を提出する方向だ。
 これに伴い政府は原則65歳の年金支給開始年齢は引き上げず、本人が申し出れば60~70歳の間で選択できる開始時期を70歳超に延ばすことを検討している。しかし、将来的に支給開始年齢の引き上げにつながらないかという懸念は消えない。
 自らの蓄えで老後を充実させるか。高齢になっても働き続けるか。いずれの発想も、社会保障に支えられる高齢者を減らそうという狙いで共通している。
 政府は昨年、医療や介護、年金などの社会保障給付費が40年度には約190兆円と、18年度の1・5倍以上に達するという推計を示した。負担の意味と受益のあり方を含め、現役世代の将来不安は募るばかりだ。
 持続可能な社会保障制度と安心をもたらす政策の充実を探り、明示する責任が政府にはある。自助や自己責任ばかりを強調する前に、まずは真摯(しんし)な議論と説明を求める。
カテゴリー: 社説


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