2019.05.03 08:00

【憲法改正】「遺産」ありきは許されぬ

 安倍首相が、改正憲法の2020年施行と9条への自衛隊明記案を打ち出して2年が過ぎた。目標年次は来年に迫っている。
 首相の意向を受けた自民党は昨年3月、9条を含む4項目の党改憲案をまとめた。首相は今年3月にも9条改正を「政治の責任」と述べている。改憲を宿願とする姿勢に変わりはないとみていいだろう。
 ただ、昨年は森友、加計両学園の問題など政権の不祥事続出で国会が混乱に陥り、昨年中の国会発議に向けて憲法論議を進めるという思惑はご破算になった。
 さらに、首相側近が衆院憲法審査会の開催に野党が消極的だとして「職場放棄」と発言したことに野党が猛反発。今年の通常国会でも、衆参両院の憲法審査会で改憲に関する実質的な論議は進んでいない。
 20年という日程ありきの姿勢には在任中の「レガシー(遺産)」づくりへの首相の執心が見て取れる。しかし、国民の理解が深まらないままの改憲などあってはならない。
 そもそも、自民党がまとめた4項目は、相当の議論を重ねて精査すべき内容だ。
 9条改正案では、戦争放棄を掲げた1項、戦力不保持と交戦権否認を定めた2項はそのまま残し、新たな条文で自衛隊の保持を明記した。
 政府は従来、自衛隊について「必要最小限度の実力であり、戦力に当たらない」との見解に立ち、違憲ではないとしてきた。だが、条文案からは当初想定されていた「必要最小限度」の文言が削られ、自衛の範囲が拡大する余地が生まれた。集団的自衛権行使についても範囲拡大につながる恐れが否定できない。
 大災害時に政府へ権限を集中させる緊急事態条項も、政府の権限乱用を国会が統制できない恐れや、私権が制限される可能性がある。災害時の権限集中は災害対策基本法などで既に定められており、憲法に定める必要はないという見方もある。
 国に教育環境を整備する努力義務を課す「教育充実」も、既に国民が等しく教育を受ける権利を定めた26条1項などがあり、「意味のない改憲」との批判がある。
 本県が当事者となっている参院選の合区解消にせよ、1票の格差是正はもちろん、国会議員を「全国民を代表する」と定めた43条との整合性など幅広い論点があるはずだ。
 共同通信が今年2~3月に行った世論調査が、安倍自民党と国民世論の温度差を映し出している。
 憲法改正に関心があるという回答は「ある程度」を含めて71%に上った。一方で、20年に改正憲法を施行するスケジュールには反対が58%と賛成を20ポイント近く上回った。 
 憲法論議は深めるべきだが、日程ありきの拙速な改憲には懐疑的という民意と受け取れよう。
 議論を深めないまま法案の採決強行を繰り返す安倍政権には、おごりと緩みへの批判がつきまとう。冷静な憲法論議を進めるには、その姿勢を改めることが先ではないか。
カテゴリー: 社説


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