2016.06.09 08:10

奇跡の笑顔 全盲・重複障害を生きる(11)教育長が異例の決断

入学決定を伝える高知新聞(2008年11月6日付朝刊)
入学決定を伝える高知新聞(2008年11月6日付朝刊)
 一度は門前払いされた山崎音十愛ちゃん(11)=高知市=の高知県立盲学校幼稚部入学。母、理恵さん(49)の高知県母親大会での発表を機に流れが変わり、音十愛ちゃんは2009年1月、3学期から年少組に入ることができた。

 「入学をすすめる会」の会長だった田中きよむ・高知県立大学教授(53)=社会保障論=は、その要因をこう語る。「お母さんの頑張ろうとする姿勢に、周囲が逆に励まされたというのか、生き方を教えられたと思います。同情だけでは大きな波にならないんです。本人とお母さんが常に出てこられた。誰かに代弁を求めるわけでもない。それが大きかった」

    ◇  ◇

 支援者から「新聞へ投稿を」と言われた理恵さん。わずか600字の短文だったが、悩み抜いたという。「1カ月かかりました。どうすれば世間の人に分かってもらえるのか。書いて書いて書き直しましたねえ」

 その労作は2008年9月10日、高知新聞朝刊・声ひろば欄に載る。共感の灯がともったところへ油を注いだのは、12日後に載った高知県教育委員会側の回答だった。

 「早期対応の大切さは十分認識」としながら、「盲学校でお預かりすることは難しい」「ひまわり教室で最大限の支援を整えており、何とぞご理解を」と何ら変わりはなかったのだ。これが反発を呼んだ。「高知県教育委員会の答えは冷たい」「軽々しい答えを出すな」「予算を理由に子供の教育をおろそかにするな」。投稿が相次いだ。

 街頭署名活動は10月19日、高知市のひろめ市場前で行われた。山崎さん親子も並び、「お願いします!」と頭を下げていたら、「やっぱりお母さんが直接言わないと」となり、理恵さんはマイクを渡された。

 「もう、ドキドキでした。生まれて初めて人前での演説です。原稿? ありません。ただただ、『重い障害があっても、成長、発達の大切な時期に、専門教育の場を与えてほしいんです』って繰り返し訴えました。ようやったと思います」

 余韻も冷めぬ4日後、支援者10人に伴われて高知県教育長との直接交渉が行われた。持参した署名は約1800筆(最終的には2万2千筆にもなる)。中沢卓史教育長(65)と対面した。すると、「検討するので時間がほしい」となり、入学は条件付きながら認められることになる。

 決断の背景を教育長は明かす。「まず、お母さんの熱意です。直接会って、強い思いに心を動かされた。それと、現場の盲学校職員に、何とか対応してみようという前向きの気持ちがあった。それなら、既存の制度の枠組みを乗り越えてみようと判断したわけです」

 11月3日、高知市内で開かれた「すすめる会」の結成集会は急きょ、入学確定の報告集会となった。あいさつに立った理恵さんは、こう述べた。

 「つい、数カ月前まで、一障害児の問題として切り捨てられようとしていたことが、ここまで多くの人が関わってくれることになるとは想像もできませんでした。もう独りじゃないんだ。そう思えたことが、どれほど力になったことか」。涙ぐみながら深々と頭を下げた。

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