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2019.03.21 08:27

【地震新聞】発達障害者どう守る 高知市で支援者有志が講演会

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発達障害者への視覚支援で活用できるメモ (「おめめどう」の商品を基に作成)

グッズ会社運営・奥平さん(兵庫県)
「平時から視覚支援を」「絵や筆談有効」

 南海トラフ地震の発生時、集団行動や日常の変化への対応が苦手とされる発達障害のある人や、その家族をどう守るか。災害に備え、平時から周囲が障害の特性を理解し、支え合う心構えを持つことが重要だ。これまで支援に携わってきた関係者に取材し、支援の在り方を考える。(早崎康之、海路佳孝)
 
 「災害時、発達障害や知的障害のある人に視覚で情報を伝える方法を知ってもらいたい」
 
 そう訴えるのは自閉症と知的障害のある次男(26)と生活する奥平綾子さん(55)=写真。兵庫県篠山市で2004年から、発達障害のある人への支援グッズを販売する会社「おめめどう」を運営。高知市で開いた講演会の内容を基に、「視覚化」によるコミュニケーションの方法を紹介する。
 
 地震など大規模災害時は物資が手に入らなくなったり、停電で電化製品が使えなかったりする。「非日常」の暮らしが苦手な発達障害のある人には、伝えたいことを口頭だけでなく絵や筆談でやりとりすることが有効だと主張する。
 
 「おめめどう」が開発した「どうしてメモ」は、三角形の囲いの中に横線を入れたデザインで、下に「原因」、上に「結果」を書き込む。例えば、下に地震や津波の文字やイラストを書き、横線の上に、その結果として「停電しているから電気がつかない」ことを知らせる。
 
 「○×メモ」は、家族ら支援者が「○○してほしいこと」を伝える。避難所生活などで勝手に行動しないように×のスペースには「1人で動かないで」と書く。「一緒にいてね」「この部屋の中なら動いて大丈夫」など、○とセットで伝えることが大切という。
 
 奥平さんは「『していい』ことも伝えないと、何をしていいか分からなくなる。注意されたり、叱られたりということしか心に残らない」と説明する。
 
 その日1日や、数週間の予定が書き込めるメモやカレンダーも紹介し、「発達障害のある人にとっては、先々の見通しが分かることで心が安定する」と指摘。このほか、不安や不満をうまく伝えられない発達障害者のために、気持ちややりたいことを筆談でやりとりすることも有効だとした。
 
 奥平さんは「普段から視覚支援をしておくと、その支援に信用があり、緊急時でも理解してもらえるようになる。日頃からちょっとした変更、見通し、理由を視覚で伝える習慣を付けてもらいたい」と呼び掛ける。
 
 講演会は、県内で発達障害者の支援に携わる有志でつくる「いっぽいっぽつながり企画」が主催。支援施設の職員や発達障害のある人の家族ら約60人が聴講した。
 
 商品に関する問い合わせは、おめめどう(079・594・4667)へ。
 

避難所でマットなどで横になり夜を過ごす人たち(2016年4月18日、熊本県益城(ましき)町)

不安や苦手 知って支える
県立精神保健福祉センター 山崎正雄所長

 自閉症などの発達障害を抱える人は環境の変化や言葉でのコミュニケーションが苦手といった特性があり、不特定多数の人の中でパニック症状を起こすこともある。災害時にはそうした行動は周囲に「わがまま」と誤解され、家族とともに孤立する傾向がある。
 
熊本では車中泊続出
 2016年の熊本地震では行き場を失い、車中泊を強いられる事例が相次いだ。熊本県内の特別支援学校の保護者を対象にしたアンケートでは、避難した997家族のうち65%が車中泊を強いられた。「障害を理解されず、(避難所から)出て行けと言われた」との記述もあった。車中泊のため、水や物資の配給情報などが入らなかった例もあった。
 
 「発達障害の子どもさんがいる家族が周囲に遠慮し、昼間は集団の中にいないよう避難所から出て過ごす姿があった」。そう振り返るのは、高知県の「災害派遣精神医療チーム(DPAT)」を率いて熊本の被災地でケアにあたった県立精神保健福祉センターの山崎正雄所長=写真。
 
 20代後半とみられる青年がトイレに立てこもり、母親らが説得する場面に出くわした。青年は発達障害があるとみられ、不登校を経て家に引きこもっていた。山崎所長らが落ち着かせ、話を聞くと青年は「人が怖い」「僕は怖いんだ」と繰り返したという。
 
 山崎所長は「会議室くらいの小さな部屋だったけど、それでも彼には耐えられなかった。大声で騒ぐということで周囲も困っただろうが、一番本人がしんどかったと思う」。それぞれに特性は異なるが、人が視界に入るだけで混乱したり、慣れない環境や大きな音によってもパニックになったりするという。
 
 ほかにも、「おうちに帰る」と避難所を歩き回る認知症高齢者の家族から泣きながら相談を受けた。母子家庭で必死に子育てと仕事を両立させてきた家族が、震災のショックで不安定になる様子も目にした。
 
 「認知症、不登校、引きこもり、母子家庭…。障害や弱さを抱えている方が非常事態に不安定になる以上に、そんな方々を日々支え続けてきた方が支えきれなくなる。家族が支えきれなくなった時、行政や周りが支える仕組みを作らないと」と山崎所長は訴える。
 
 熊本地震が起きて初めて、地域の人が引きこもりや発達障害といった災害弱者の存在を知った事例も多かったという。「普段から、この人はこういうことが苦手だとか、こういうことに不安を感じるといったことを知っておくことが大切」と呼び掛けている。
 
 
備防録 気付く
 「災害時に障害者が不安に思うのは『自分がここにいる』と気付いてもらえないことなんです」。「おめめどう」の奥平綾子さんは講演でそう訴えた。
 
 要配慮者の支援に向け、県は高齢者や障害者を対象とした福祉避難所の拡充に力を入れており、現在209施設で9128人が受け入れ可能だという。ただ、施設の確保はまだ十分でないし、専門医ら支援者が常駐するのは難しいだろう。
 
 避難所では周囲の視線を遮ることのできるついたてを設けるなど、障害特性に応じた配慮があれば、発達障害のある人や家族の「いづらさ」を和らげられる。
 地域が障害特性やその人の存在に「気付く」ために、平時から障害者の存在を念頭に置いた訓練を重ねる必要がある。(海路)
 
 

防災劇を披露する川向地区防災会のメンバー(安芸市西浜の市消防防災センター)

《防災最前線》
女性の視点生かす 川向地区防災会(安芸市)

 昨年11月、安芸市で開かれた県女性防火クラブ連絡協議会の研修会で、地元の川向地区防災会のメンバー8人が防災劇を披露した。乳飲み子を抱えた主婦、聴覚障害のある女性、ペット連れの男性…。さまざまな人間が集まる避難所生活での困りごとをどう解決するか。見る側に「あなたならどうする?」と投げ掛けた。
 
 中心メンバーで長年事務局を務める仙頭ゆかりさん(61)は「防災活動に女性の視点を生かしたい」と組織づくりや内容を工夫してきた。川向地区防災会は市街地の86世帯199人が入っている。21人の役員は原則1~2年交代で、2018年度は9人が女性が務める。会議は1回1時間ほどにとどめ、手のすく時間を調整するなど配慮している。
 
 防災劇は、訓練のマンネリ化を防ぐため10年に始めた。その後、高知市での上演を見た関係者から「女性の視点で地域防災を考えるいい材料」と評価され、これまで県内各地で30回以上の公演を重ねている。幼児向けなど他のパターンもつくり、啓発に役立てている。
 
 同防災会は避難する際に隣近所で声を掛け合おうと「おたすけ5人組」というグループを構成。年齢や血液型、就寝場所などを記したカードを作成し、「自分たちの命は自分たちで守る」取り組みも進めている。昨年からは毎月15日を「声がけの日」としており、仙頭さんは「楽しみながら活動を続け、次世代へもつなげていきたい」と話している。(安芸支局・岡林知永)
 
 
そな得る(3)住宅耐震 自己負担ゼロも
 高知県が南海トラフ地震対策で最優先して取り組んできたのが住宅の耐震補強だ。2003年度から住宅耐震の補助制度を設けている。対象は建築基準法の改正で、耐震基準が強化された1981年5月以前の住宅だ。
 
 耐震性の有無を調べる診断は自己負担が3千円以内で、26市町村が無料化している。耐震診断をした後は、工事内容や予算などを見積もる耐震設計。これには県内一律で20万5千円の補助がある。実際に改修工事に進めば92万5千円の補助がある。設計、改修工事とも市町村によっては独自に上乗せ補助をしている。
 
 東日本大震災や熊本地震などをきっかけに、制度を使った耐震補強は年々増加し、17年度の改修工事は1568棟。18年度も1770棟を見込み、実数ベースでは全国トップクラスだ。
 
 改修が増える背景には、低コスト工法の普及がある。天井や床をはがさずに、壁に強度の高い合板を貼りつけるなどの工法で、工事作業の省力化にもつながっている。
 県住宅課によると、17年度の改修費の平均は163万円。うち5割は130万円未満で、自己負担ゼロで改修できるケースも増えている。
 
 幡多郡黒潮町では、行政主導で耐震工事の知識を学ぶ業者向けの勉強会を重ねてきた。地元業者が耐震工事を行える技術を身に付けることで、住民にとっては顔なじみの業者に頼めることが利点。東日本大震災当時に1桁台だった改修工事は17年度、138棟に急増した。
 
 県住宅課は「身を守るだけでなく、津波到達までに安全で避難するためには耐震は重要だ」としている。

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