2019.03.18 08:00

【海賊版対策】丁寧な議論積み上げ直せ

 インターネット上の違法ダウンロード規制を強化する著作権法改正案について、政府と自民党が今国会への提出を断念した。
 刑事罰も科される対象をあらゆる著作物に広げたため、「ネット利用の萎縮を招く」との批判が相次いでいた。文化庁は課題を整理し、法案の見直し作業を進める考えだ。
 著作権の保護は徹底されなければならないが、ネット上は多くの著作物にあふれ、さまざまな形で利用されている。規制強化の影響は大きいはずだ。
 政府はそんな法案をわずか4カ月ほどでまとめた。拙速感は否めず、規制強化を求める側の団体からも慎重論議を望む意見が出たほどだ。法案の提出見送りは妥当な判断といえよう。
 とはいえ著作権侵害を野放しにはできない。政府は議論を丁寧に積み上げ直し、社会の理解が得られる法制度を作る責任がある。
 ネット社会の拡大が著作権侵害を加速させているのは事実だ。
 最近では、漫画などを無断掲載するだけでなく、閲覧者がダウンロードして自分のパソコンやスマートフォンに取り込めるようにした海賊版サイトが問題になっている。海賊版サイトに誘導する別のサイトも存在するから深刻だ。
 現行法では、映像や音楽は海賊版サイトと知りながらダウンロードすると違法になる。作者が告訴すれば刑事罰を科される。改正案はそれをあらゆる著作物に広げる内容で、突如、表に出てきた。
 漫画はもちろん、写真や論文、小説、ゲームソフトなども全て対象になる。多くのネット利用者や専門家が驚いたのは無理もない。海賊版対策を訴えてきた漫画家からも「行き過ぎだ」などの声が上がった。
 ネット上の作品の利用は時に作者とファンの距離を縮めたり、新たな創作につながったりする面がある。漫画家も大も小も一律に取り締まることを求めているわけではない。
 政府は昨年4月に海賊版サイトの対策強化を表明。当初は、サイト閲覧を強制的に止める「接続遮断(ブロッキング)」の導入方針を打ち出したが、反対意見が続出し、頓挫した経緯がある。
 その代わりに急浮上したのが違法ダウンロードの対象拡大だ。有識者会議が昨年秋から議論を始め、ことし2月には法案の骨格が固まった。自民党の部会も法案の国会提出を了承していた。
 法案化を急ぐため、著作物それぞれの特性などを踏まえず、十把ひとからげで規制対象にしたと言わざるを得ない。夏の参院選に向け、政府が実績作りを急いだ結果との批判も出ている。
 見送りは妥当だとしても、政府与党の法規制や国民生活への影響に対する意識の低さが露呈したともいえる。これでは著作権法が乱用される恐れさえ抱く。仕切り直しは業界や作家、国民の声も広く聞き取り、しっかりと進めるべきだ。
カテゴリー: 社説


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