2019.03.07 08:00

【新出生前診断】要件の緩和に懸念尽きず

 胎児にダウン症などの染色体異常がないか調べる「新出生前診断」が拡大する可能性が出てきた。
 日本産科婦人科学会が実施医療機関の要件を緩和する方針を決めた。現在は大学病院など全国92施設に限られるが、研修を受けた産婦人科医がいれば開業医などでも検査できるようにする。
 要件の緩和には懸念が尽きない。出生前診断は「命の選別につながりかねない」と以前から指摘されてきたからだ。現在でも、染色体異常が確定した胎児の9割が苦渋の選択によって中絶されているという。それに拍車がかかりかねない。
 妊婦やその家族が納得して診断を受け、考えることができる十分な情報提供やカウンセリング体制が整っているのかも問いたい。
 学会はパブリックコメントを経て正式に決定する考えだが、そもそも生命倫理に深く関わる問題だ。学会任せのルール作りになっていること自体、おかしいのではないか。拙速に進めず、もっと国民的な議論を重ねる必要がある。
 新出生前診断は、妊婦の血液に含まれる胎児のDNAの断片から、ダウン症など三つの染色体異常を調べる。国内では2013年に臨床研究が始まった。
 それ以前から行われていたおなかに針を刺す羊水検査などに比べ妊婦への負担が小さいのが特長だ。実施機関は学会が基準を定めて認定。豊富な知識を持つ産婦人科医と小児科医が常駐し、どちらかが遺伝の専門医の資格を持つことなどが条件として課されてきた。
 ところが、無認定で検査を行う民間クリニックを利用する妊婦が後を絶たない問題が浮上。事前の説明やサポート体制が不十分で、精神的に苦しむ妊婦が少なくない。
 背景には、出産の高齢化などで診断を望む人が増えていることや、実施機関が1カ所もない県が複数あるなど診断環境の格差がある。
 条件を厳しくして質に問題がある無認定施設を生じさせるよりも、一定緩和して妊婦側のニーズに立った検査環境を提供する。学会は方針の大転換を図ったといってよい。
 その意義を否定はしないが、検査を受けやすくなればなるほど命の選別に直面する妊婦が多くなる。生まれながらの疾患や多様性を許容しない優性思想が広がらないか。検査を受けるのが当然という風潮にならないかも心配になる。
 検査をしない判断、検査結果がどうであれ産み育てる判断も尊重されなければならない。日本ダウン症協会は、ダウン症の人や家族に生きづらさを感じさせる運用にならないよう求めている。
 技術は進歩している。出生前診断でいずれ、がんやアルツハイマー病などのリスクも調べることができる時代になるだろう。そうなれば生命倫理の在り方がさらに問われる。
 ルール作りには国も積極的に関わる必要がある。社会全体で論議を重ねるべきだ。
カテゴリー: 社説


ページトップへ