2019.02.09 08:25

この空のかなた 138億年の旅(34) 宇宙の未来と終末


 天文学は、過去から現在に至る宇宙の進化とその起源を探る学問です。しかしその結果は、その先にある宇宙の未来を予言することにもつながります。天気予報と同じく、遠い未来になればなるほど予想の信頼性は低くなり、正しいかどうかは保証の限りではありません。しかも、今回お話しする宇宙の未来とは、私や読者の皆さんが生きていないのは当然として、地球上の人類すら滅亡しているはずの、ずっと先の話ですから、正しいかどうかを検証すること自体が不可能です。

 というわけで、間違いを恐れる必要は全くないのです。安心して天文学者による大胆な予想を紹介してみましょう。
 
 
(1)100億年後
 繰り返し強調しているように、すべての天体はやがて死を迎えます。われわれの太陽も今から約50億年後には中心部の水素が燃え尽き、赤色巨星と呼ばれる天体に進化します。巨星という名前が示す通り、その半径は現在の100倍以上に膨張し、地球はその中に飲み込まれるものと考えられています。仮に飲み込まれなくとも、太陽はほぼ燃え尽きた天体となってしまいますから、地球は重要なエネルギー源を失い極寒の惑星となるはずです。いずれにせよ、それまでに人類が滅亡するのは当然として、いかなる生物であれ地球上に存在し続けることは困難でしょう。

 ところで、天の川銀河とアンドロメダ銀河は、お互いの重力のために秒速約120キロメートルで近づきつつあります。これから計算すれば今から50―100億年後には、衝突と合体を繰り返し、最終的には一つの巨大銀河となるものと予想されています。

 その頃には地球も人類も滅亡しているはずですが、仮に地球から観測したとすれば、アンドロメダ銀河が天の川と同じぐらい大きく夜空一面に広がって見えることでしょう。また赤色巨星となった太陽もまた空全体を埋め尽くすほど巨大に見えるはずです。このように、今から50億年以上先の未来に地球が残っていたとしても、そこから眺める空は、昼であろうと夜であろうと現在とは全く異なる、恐ろしい景色に変貌しているものと思われます。

(2)千億年後
 天の川銀河とアンドロメダ銀河は、局所銀河群とよばれる近傍の銀河集団をなしています。千億年後には、これらの銀河がすべて合体して、一つの超巨大銀河となるでしょう。

 一方で、局所銀河群の外にあるほとんどの遠方銀河は、宇宙の膨張に伴って現在でも天の川銀河から遠ざかりつつあります。宇宙の膨張は加速していることが観測的に明らかになっているので、遠方銀河はますます高速でわれわれから遠ざかり、千億年後にはほとんど見えなくなってしまいます。つまり、天文学者が観測できるのは現在の局所銀河群に属している銀河の星々だけに限られ、それより遠方の宇宙はもはや観測できません。この意味において、もはや天文学を行うことは不可能になるはずです。

(3)1兆年後
 個数だけでいえば、天の川銀河の中にある星のほとんどは、太陽よりもずっと軽い赤色矮(わい)星と呼ばれる種族です。星は軽ければ軽いほど暗くなり、結果的に燃料を使い果たすまでの寿命が長くなります。すでに述べたように太陽の寿命は約100億年ですが、太陽の8倍の大質量星は約5千万年で超新星爆発を起こし、中性子星あるいはブラックホールを残して宇宙空間に消え去ってしまいます。逆に、太陽の0・2倍程度しかない低質量星は約1兆年かけて水素を完全に燃やし切り、ヘリウムだけからなる特殊な白色矮星になります。この結果、1兆年後には、自ら輝く恒星がほぼすべて燃え尽きた暗く冷たい宇宙となってしまいます。

 一方その頃でも、ごくわずかの新たな星が生まれ続けるかもしれません。もしも、地球以外のどこかの惑星上に生き残っている人々がいたとすれば、たまたま近くで起こる超新星爆発が夜空で観測できる唯一の天文学的現象となるでしょう。それ以外は、昼も夜もなく完全に真っ暗な空が広がっているはずです。

(4)100兆年後
 さらに時間が経過すれば、もはや新たな星が生まれることもなくなり、すべての星は完全に燃え尽きて消え去ります。その頃には、ブラックホールと、遥か過去に星から放出された希薄な気体が、広大な宇宙空間を満たしているのみ。想像もできないほど、暗く静かで寂しい宇宙となっていることでしょう。
 
 
(5)10の34乗年後
 実はこれですらまだお終(しま)いというわけではありません。宇宙の天体にそれぞれ寿命があるように、すべての原子の元となっている陽子もまた永遠に安定ではなく、寿命があるものと考えられています。

 ただし、その寿命は現在のところ10の34乗年以上であると考えられています。これは現在の宇宙の年齢の1兆倍のさらに1兆倍です(そう言われてもピンとこないのは当たり前ですが、想像を絶する長さであることだけは分かっていただけるでしょう)。

 実は、超新星1987Aからのニュートリノを検出して2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊先生がもともと狙っていたのは、この陽子が安定ではなく崩壊する可能性を実験的に検証することだったのです。安定ではないにせよ気が遠くなるほど超長寿命の陽子崩壊を検出するためには、膨大な数の原子を精度よく観測する必要があります。そのための高度な検出技術が宇宙からのニュートリノという同じく稀(まれ)な現象の発見につながりました。

 いずれにせよ、陽子が本当に寿命を持っているならば、宇宙年齢がそれ以上になった時点で、ほぼすべての原子は崩壊して素粒子になってしまいます。また、何物も外に出られないはずのブラックホールも、これだけの時間が経過すると、やがて消滅することが理論的に予言されています。
 
 
 このように、この宇宙は最終的には天体どころか物質も元素もなく、全てが素粒子となった状態で永遠に膨張を続ける運命にあります。

 宇宙の遥か先の未来を考えてみれば、逆に、現在のように夜空を楽しみ宇宙の歴史を科学的に解明できる時期は極めて限られていることに気づきます。われわれは偶然そのような恵まれた時期に生きているのです。その幸運に感謝したいものです。

(須藤靖=宇宙物理学者、東大教授、安芸市出身)

 次回は最終回

関連記事

もっと見る

カテゴリー: 文化・芸能この空のかなた文化


ページトップへ