2016.05.20 08:15

奇跡の笑顔 全盲・重複障害を生きる(5)触られるのが恐ろしい

音十愛ちゃんは吸う力が弱く、工夫の凝らされたほ乳瓶を使っていた。目尻から垂れているのは義眼を引き出すための糸(2005年4月、提供写真)
音十愛ちゃんは吸う力が弱く、工夫の凝らされたほ乳瓶を使っていた。目尻から垂れているのは義眼を引き出すための糸(2005年4月、提供写真)
 前回、山崎音十愛ちゃんの泣き暴れる状況を「自傷が激しく」と書いたが、母、理恵さん(49)の話を聞くと、ひと言で済ませられるような中身ではない。理屈と大変さを少し紹介しておきたい。

 音十愛ちゃんは、体に触れられることへの拒絶がすごかった。

 「全盲なので周りが全く分からない。知的障害が重なると、『快』『不快』といった情動の育ちや、人や物との関係にも影響が大きく、自分の世界に閉じこもる傾向が強くなるんです」と話すのは特別支援学校の元教諭、沢田京子(けいこ)さん(61)。音十愛ちゃんとは生後半年から接してきた。

 視覚以外の感覚で周りの状況を把握しようとするため、いろいろな感覚過敏になり、不快や不安、恐怖につながりやすい。だから、突然触られたり動かされると自傷が強く出るらしい。

 「自分をたたくことで自分を確認し、痛みで気持ちを紛らわせるというのか。それによって周囲が自分に関わってくれることで、人との関係をつくろうとしていたのかもしれません」

 実は音十愛ちゃんは生後すぐから痛い思いをし続けてきた。例えば、中耳炎の治療。鼓膜を切開して膿(うみ)を出すが、「耳は麻酔しなかったんです。どれほど痛かったことか。ひせる(※土佐弁で叫ぶ)んです。それを押さえつけるから、さらにひせる。本人は地獄だったと思います」と理恵さん。

 義眼もそうだ。眼窩(がんか)を成長させ、まぶたの幅を広げるために入れる。アズキ大から始まり、徐々にサイズアップするのだが、入れっ放しだと細菌感染するので、取り出して、目の中も洗浄する。「吸盤で引っ張り出すんですが、これが痛い。義眼をやや大きめに作って入れているんで、目尻が広がってピッと切れるんです。ものすごく泣き叫んで血の涙。毎日です。これもまた、押さえつけてやる。まるで、虐待。私も泣きながらやってました」

 人に触られる度に激痛を感じるのでは、不安にかられても無理はない。

 理恵さんもクタクタだった。「たたくし、泣くし、どうあやしても止まらないんです。ずっと抱っこして、手も握って。明け方、ウトウトしたかと思うと、また泣いて。眠いはずなのに寝ない。もう地獄ですよ。気が狂いそうになる。その日を生きるのが精いっぱい。子供を虐待してしまう母親の精神状態、分かるものがありますね。寝不足から解放されたかった。入院させてほしかった」

 追い詰められ、叫んで壁を蹴破ってしまったこともある。「救いは子供に向かず物に向いたことですね」。細身だが高校時代はソフトボールで国体出場。「スパルタで、弱音を吐くのが許されなかった。それが役立ったのかもしれません。普通だったらどうなってたんでしょうねえ…」

 ひどい自傷は2015年春まで続き、時に耳が切れ、ただれてもやめなかったという。

    ◇  ◇

 さて、高知大学医学部付属病院外来に駆け込んだ音十愛ちゃんはどうなったのか。高カルシウム血症と診断され緊急入院した。そして、多発奇形症候群とされていた病気の正体を知ることになる。

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