2016.05.19 08:10

奇跡の笑顔 全盲・重複障害を生きる(4)大学病院へ駆け込んだ

音十愛ちゃんの口唇裂は2歳直前の手術できれいに治った(提供写真)
音十愛ちゃんの口唇裂は2歳直前の手術できれいに治った(提供写真)
 2005年3月末、生後2カ月で高知医療センターへ転院した全盲の重度重複障害児、山崎音十愛ちゃん。診察の結果、「多発奇形症候群」と診断された。

 自宅が近くなったので、母、理恵さん(当時38歳)は「しばらく母子入院して、合間に家の用事も」と期待したが、そうはいかず、半月で退院となった。

 「小児科の先生に言われたんです。『お母さん、入院中にすることはもうないんです。後は外来で体重を増やして形成外科の手術を一つ一つやってゆくことになります』って」

 急変で受診する子が多い高知医療センターにとって、病床確保は切実。緊急性がなくなれば、あとは通院で治療していくのが一般的だったが、理恵さんにとってはつらい言葉だった。「ショックでした。こんなに小さな体でミルクも飲めず、どうやって家で見ればいいのか…」

 口蓋裂(こうがいれつ)対策で装着する「ホッツ床(しょう)」は転院1週間後にできたが、分厚く頑丈だったので、赤ちゃんはうまくミルクを飲めていなかったという。

 しかし、退院。家で育てて5キロを超えたところでまず、口唇裂(こうしんれつ)の手術へ―という段取りだったが、ことは簡単に運ばなかった。「問題が次々と出てきたんです。ほ乳瓶は吸えないし、鼻からチューブで入れても吐くんです」

 具合の悪かったホッツ床については退院後、経験豊富な兵庫県の矯正歯科医に出会い問題解決した。2カ月ごとに高知県立療育福祉センター(高知市)へ出張診療に来ており、作り直してくれたのだ。

 だが、重い障害のある子は胃の内容物が逆流しやすい。ホッツ床のおかげでミルクは飲めだしたものの、すぐ吐いてしまう。しかも、音十愛ちゃんは自傷が激しく、昼夜を問わず泣き叫ぶ。「全然、寝ないんです。どんどん弱っていった。息も小さくなって、高知医療センターの外来へ飛び込んだこともありました。でも、入院させてもらえなかった」

 受診は小児科だけでなかった。耳鼻科と眼科も頻繁だった。嘔吐(おうと)が原因で中耳炎に。しょっちゅう鼓膜を切開し、膿(うみ)を出した。義眼も成長に合わせてサイズを小刻みに大きくするが、まぶたの裏に炎症が起こる。高知大医学部付属病院にもかかり、退院以降、年末までの通院は約60日を数えた。

 病院通いの傍らで各種福祉制度の利用申請も忙しかった。手帳の発行、障害児用バギーの購入、高速道路の割引、駐車禁止除外許可…。「期限に追われて大変でした」

 夫が残業の合間を縫って兄姉(きょうだい)の面倒を見てくれたが、音十愛ちゃんが泣き暴れ、朝まで夫婦で交互に抱くことも。理恵さんは時に香川の実家へ母子で帰り、実母の助けで乗り切ることもあった。

 「早く太らせて唇の手術をしてやりたい」と焦るが全く太らない。7月半ばに4キロを超えたが、年末になっても4300グラム。そこへ風邪で体調悪化。ミルクも受け付けなくなった。

 「このままだと干からびて死んでしまうのでは」。看病疲れと睡眠不足で心身ともに追い詰められた理恵さんは、年が明けると高知大学病院に駆け込んだ。

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