2018.10.12 08:00

【福島原発汚染水】処分論議の前提が崩れた

 東京電力の無責任ぶりがまた露呈した。福島第1原発の汚染水を浄化し、巨大タンクで保管する水が放射性物質を十分除去できていないことが分かった。
 タンクの水は今年8月時点で約90万トンに上る。東電によると、このうち8割近くでトリチウム以外の残留濃度が排水の法令基準値を超えていた。基準値の2万倍に上るものもあったという。
 東電はこれまで、放射線のエネルギーが弱いトリチウム以外は「除去できている」と強調してきた。政府の小委員会も問題にせず、タンク内の水の海洋放出案などを提示し、住民にも理解を求めてきた。
 放射性物質が大量に残留しているとなれば、論議の前提が崩れたことになる。住民らが怒りの声を上げて当然だ。
 東電は再浄化すれば除去できるとするが、簡単には納得できまい。本当に除去できるのか、除去できるならなぜ大量に残留しているのか。まずは十分な説明を求める。
 汚染水問題は第1原発の事故後、早い段階から廃炉作業のアキレス腱(けん)になるとみられてきた。
 炉心から溶け落ちた核燃料(デブリ)は水をかけて冷やし続ける必要があり、大量の汚染水が発生する。原子炉建屋に地下水が流入して汚染水が増える事態にも陥った。
 汚染水はくみ上げて、多核種除去設備(ALPS)で放射性物質を浄化しているが、水素の性質に似たトリチウムは水に混ざると取り除くことができない。
 トリチウムは他の原発でも運転過程で発生し、希釈して海に流すなどしてきた。福島第1原発でも事故前は海洋放出していた。
 事故後の第1原発は漁業関係者らの反対もあって放出せず、敷地内にタンクを設置して貯水してきた。敷地内は現在700基近い巨大タンクが林立する異様な光景となっている。
 政府の小委員会も、このままではデブリの取り出し作業に影響を及ぼしかねないとして、タンクを撤去する方針を了承。今年8月には公聴会を開いて、住民らに海洋放出などの処分に理解を求めてきた。
 処分の議論は不可欠だが、漁業関係者らが風評被害の拡大を心配するのは当然だ。慎重な論議を尽くさなければならない。
 その時に何より大切なのは正しい情報に基づく議論だ。今回の問題は第1原発事故の問題で繰り返されてきた東電や政府への不信をさらに増大させかねない。
 海洋放出を容認する原子力規制委員会の姿勢も信じがたい。残留の可能性は当初から認識していたとし、「希釈すれば法令基準を下回るのは明白」として、問題にすることがなかったという。国民の感覚からはずれている。
 東電や政府は適切な情報を示し、論議もやり直すよう求める。第1原発事故は多くの禍根を残した。7年半を過ぎ、それがなお広がる事態は避けなければならない。
カテゴリー: 社説


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