2018.10.07 08:00

【湿地の消滅危機】防災にも欠かせない宝だ

 1970~2015年の45年間で世界の湿地の35%が消えた―。水鳥など多様な動植物が生息する沼や干潟などの保全を目指すラムサール条約の事務局が、そんなショッキングな報告書を初めて発表した。
 乱開発などにさらされる森林の3倍の速さで消滅しており、事務局は「湿地が危機にひんしている」と警告する。条約には日本も加盟している。地域を脅かす深刻な「危機」として受け止めたい。
 「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」を正式名称とするこの条約は、1971年の採択から半世紀近くになる。各国が重要な湿地を登録し、保護区の設定などで保全に取り組む。
 米国や中国など170カ国が加盟し、湿地登録数は約2300に達する。湿地保全が国際的にいかに重要視されているかを示そう。
 日本は80年に加わり、これまでに北海道・釧路湿原など50カ所が登録されている。新たに東京都江戸川区・葛西海浜公園など2カ所が年内に認定される見込みだ。
 湿地の機能は多様な生物の保護や水質浄化だけではない。豪雨や河川から氾濫した水をスポンジのように吸い取る役割を発揮し、自然災害の緩衝帯として地域の防災・安全に貢献する。サンゴ礁やマングローブは津波の威力を抑えるという。
 世界各地で豪雨や震災、干ばつなどの大災害が増える中、湿地の防災力の重要度も増す。
 だが、都市化や工業化で埋め立てられ、さらに人口増に伴う水利用拡大や地球温暖化などで枯渇し、湿地は消滅してきた。条約事務局の報告書によると、中南米で59%、アフリカで42%、欧州やアジアで30%以上が失われた。
 事務局は「日本は保全が行き届いている例外的な国の一つ」と評価する。が、国内でも明治・大正時代から100年で6割以上減少し、なお減り続けているという調査がある。決して楽観はできない。
 国内で湿地の減少量が最も多いのは北海道で、東京都と千葉、埼玉両県は減少率が90%を超え、大阪府はほとんどなくなったとされる。農地開拓や都市開発を優先してきた世界共通の歴史と重なる。
 ラムサール条約の特徴は「保全・再生」のみをうたうのではなく、地域の生活や産業への「賢明な利用」を要請する。観光や農林漁業への有効活用を促し、そのための交流や学習を勧める。「自然と人間の共存」への追求といえよう。
 高知県内にまだ登録例はないが、環境省が2001年に選定した国内の重要湿地500カ所には室戸岬周辺沿岸や四万十市のトンボ自然公園などが選ばれた。どれもかけがえのない地域の宝であり、遺産だ。
 多面的な機能を持つ湿地を後世に引き継いでいかなければならない。公的機関による規制や管理のみに任せず、何より地域、住民がより関心を高め、保全活動に参加・寄与する機会を増やしていきたい。
カテゴリー: 社説


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