2018.10.06 08:00

【ノーベル平和賞】性暴力根絶へ行動求める

 戦争や紛争で常に犠牲になるのが、無垢(むく)で、抵抗のすべもない女性や子どもたちだ。人権を踏みにじる性暴力の根絶と被害救済を、ノーベル賞が国際社会に求めた。
 ことしのノーベル平和賞に、アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)の武力紛争で性被害を受けた女性の治療に尽くしてきた産婦人科の男性医師、デニ・ムクウェゲ氏と、過激派組織「イスラム国」(IS)に性奴隷として捉えられた経験を明かし、性犯罪撲滅を訴えてきたナディア・ムラドさんが選ばれた。
 「女性の体が戦場になり、レイプが武器として使われている」。2人が世界に説き続けてきた活動を、ノーベル賞委員会は「戦争の武器としての性暴力終結に向けた努力」と評価した。戦場の残忍を極める性犯罪の実態を肉声で告発し、世界の関心を呼び起こした果敢な行動と貢献をたたえた。
 憎悪にまみれる紛争下では理性と秩序が失われ、人間を狂わせる。その狂気は性的な欲求を満たすためだけでなく、住民たちの恐怖心をあおって服従させる、支配の「武器」と化していく。
 不毛な戦闘が続くコンゴ東部で約20年前に病院を立ち上げ、被害女性の治療を続けてきたムクウェゲ氏は自身も命を狙われながらもひるまない。性暴力の残虐性と被害者が負った痛みの深さを「核や化学兵器」に似ると訴えてきた。医師としての使命感、祖国の平和への願いが突き動かしてきたのだろう。
 イラクのクルド民族少数派ヤジド教徒のムラドさんは、まだ25歳の若い女性だ。2014年にISに約3カ月にわたり性奴隷として拉致、拘束され、脱出した。1日に何度もレイプされた体験を国際会議などで明かし、性被害女性の保護やISへの裁きを求めてきた。その勇気と信念には敬服するほかない。
 過去の戦争の地でどれほどの女性が犠牲になってきたことか。旧日本軍の従軍慰安婦問題も女性の尊厳への無視が招いた。性暴力は今も世界でやむことがない。コンゴは「女性にとって地球上で最悪の場所」と例えられ、ISの非道性、凶暴さも比類がないほどだ。
 ムクウェゲ氏たちの告発は、歯止めもなく繰り返される蛮行をどこか遠巻きにしてきた国際社会への憤りを含んでいたのではないか。そして、2人が要請するのは具体的な行動である。
 コンゴの紛争はレアメタル(希少金属)などの資源を巡る利害が背景に絡むという。世界中でスマートフォンなどに使われる。日本をはじめ世界各国が無縁ではないはずだ。戦争や紛争を引き起こす原因を取り除くことこそが、戦場の性暴力を根絶する最大の手だてなのだと改めて教えられる。
 セクハラなど性的被害の苦しみをしまい込んできた女性たちが、世界中でその声を上げ始めた。日本でもそうだ。ムラドさんたちの願いに応えられる行動を急ぎたい。
カテゴリー: 社説


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