2018.08.22 08:00

【ゲノム編集】リスクの大きさ忘れるな

 生物の設計図であるゲノム(全遺伝情報)を人為的に操作することは努めて慎重であるべきだ。
 農作物や養殖魚を病気に強くしたり、成長しやすくしたりすることには期待が膨らむ。一方で、未知の生物が誕生して生態系を脅かしたり、特別な能力を持つ子どもをつくったりと、「暴走」しかねない。
 環境省の検討会が、動植物の遺伝子を改変する「ゲノム編集」の規制方針を大筋でまとめた。
 ゲノム編集は新たな産業革命につながる分野といわれ、国際競争が高まっているが、高い倫理と行き過ぎを食い止める仕組みが欠かせない。さらに議論を重ねたい。
 検討会がまとめた方針は、大きく二つに分かれる。
 改変対象の生物が本来持たない遺伝子を組み込むことは、規制の対象とする。遺伝子組み換え技術と同じように環境への影響評価など法律に基づく手続きを課す。
 もともとある遺伝子に変異を生じさせ、特定の機能を失わせるような場合は規制の対象外とした。このケースでも、野外で扱う場合は生態系への影響が否定できないため、国に届け出を求めた。
 ゲノム編集は、1970年代に始まった遺伝子組み換え技術による遺伝子操作を新たな方向に発展させたといってよい。
 酵素を使って遺伝子を切断し、遺伝子のDNA配列のうち、狙った場所を改変する。5年前に簡単で効率的な手法が開発されると、世界的に利用が進んだ。
 遺伝子組み換え技術は、他の生物の遺伝子を組み込んで特別な機能を持たせるが、ゲノム編集はそれに加え、本来の遺伝子の消去もできるのが特徴だ。
 組み換え技術の生物は現在、交配による生態系への影響を防ぐため、野外栽培には法による規制が設けられている。ゲノム編集は新しい技術ということもあり、この規制が適用されるのか曖昧だった。
 海外では対応が分かれている。欧州連合(EU)の司法裁判所は先月、外来の遺伝子を組み込む場合、もともとの遺伝子に変異を起こさせる場合のいずれも規制をかけるべきだとの判断を示した。米国は特段の規制がないのが実情だ。
 環境省の方針はその中間ともいえよう。本来の遺伝子の変異は自然界でも起きるため、規制にそぐわないと判断したようだが、自然の作用と同列に扱うのは疑問だ。
 野外で扱う場合は届け出を求めたのは当然として、屋内での利用も、野放しにならない仕組みが必要であろう。消費者団体は欧州と同様の規制を求めている。
 遺伝子操作の歴史はまだ浅く、健康や生態系への影響は解明されたとは言い難い。ゲノム編集を施した細胞はがん化の恐れが高まるとの研究報告もある。
 リスクの大きさは忘れてはならない。慎重の上にも慎重を期す研究や利用が求められる。
カテゴリー: 社説


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