2018.08.21 08:00

【原発賠償見直し】責任を放棄するに等しい

 原発事故に備えて電力会社が事前に用意する賠償資金(賠償措置額)について、政府は焦点だった引き上げを見送る方針を決めた。
 福島第1原発事故で発生した賠償金は既に8兆円を超えているが、原子力損害賠償法に基づく現行の措置額は最大1200億円だ。あまりに少なく、原子力委員会の専門部会で見直しを論議していた。
 専門家からも引き上げを求める声が相次いだが、専門部会の報告書案は「引き続き慎重な検討が必要」との表現にとどまった。
 政府や電力会社は原発の再稼働や新設を進めているが、このままでは過酷な事故に対応できないのは明らかだ。引き上げの見送りは責任放棄に等しく、決着に向け議論を急ぐよう求める。
 専門部会は2015年に設置された。福島第1原発事故は未曽有の被害となり、制度の見直しが必至と判断されたからだ。
 論議では、措置額引き上げと、電力会社の賠償責任に上限を設けない「無限責任」を維持するかどうかなどが焦点になった。無限責任については電力会社側が「有限責任」への変更を強く求めたが、報告書案は無限が「妥当」と結論付けた。
 当然である。有限になれば、限度を超えた分は国が税金を使って補償することになりかねない。電力会社の事故防止策がおろそかになる恐れもある。
 無限責任を実現するためにも措置額は重要だ。福島第1原発事故は現行制度でまかないきれない賠償額になった。政府は東電を事実上国有化し、東電が返済することを前提に資金を支援する制度を設けた。
 この時、国会が求めたのが措置額など賠償制度の見直しだった。引き上げの先送りは、福島事故の教訓を否定することにもならないか。
 措置額は電力会社が民間保険との契約や政府との補償契約によって実現している。引き上げれば保険料負担などが増えるため、電力会社側は国費投入を訴えてきた。
 政府はこれに最後まで応じず、折り合わなかった。賠償資金は電力会社が確保するのが筋だ。政府の姿勢は当然といえる。一方で、結論を見送ったことには政府の電力会社への配慮もにじむ。
 裏を返せば、原発は電力会社だけでは負いきれない高リスクの事業であることを示している。それでも責任をもってやる覚悟がないのなら、原発から撤退するしかない。
 政府は先月改定したエネルギー基本計画で原発の発電割合を20~22%に据え置いた。政策として主要な電源に位置付ける以上、政府の責任も重い。
 報告書案は、福島事故の被災者への賠償金支払いに時間がかかったことを踏まえ、政府による仮払いの枠組みづくりも求めた。
 備えへの課題は多い。政府は論議の結果を踏まえた原賠法改正案を秋の臨時国会に提出する方針だ。国会にも強い覚悟が求められる。
カテゴリー: 社説


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